第八章:通史
第一節:概要
三界の歴史は、竜世紀・古世紀・旧世紀・前世紀・現世紀に区分される。
【竜世紀】三界の創世~悠竜時代~太古文明の発祥まで。
【古世紀】太古文明の発展~太古の崩壊~第一帝国・深層文明・古代文明の成立~「辺境伯の進軍」まで。
【旧世紀】同盟戦争~ブルスケッタ王国の成立~黄金時代まで。
【前世紀】百年戦争・絢金時代と大厄災。
【現世紀】現在。
第二節:竜世紀
神話の時代。三界の創世から、文明の勃興まで。地質学的な調査、化石の発掘、古文書の解読などによって、竜世紀の歴史は次第に解明されつつある。しかし、多くの部分がいまだ謎に包まれ、想像の域を出ない。
第一項:三界の創世
三界の歴史は、精霊の死で幕を開ける。精霊の生と死を区別するために時間が始まり、精霊の生きる位相が異界となった。精霊が死んだ位相では、その巨大な亡骸が常界となり、背中からは魂が芽吹いて創界に、臓腑の穴は冥界となった。創界では、大きな魂が「精霊の現身」に、小さな魂は草や虫となった。冥界では、精霊の卵が命を生み、菌が生えた。
やがて虫から獣が、獣から人が現れた。創界人は、精霊の亡骸を竜大陸、現身を竜と呼んだ。竜は、竜大陸の大竜原を縄張に、大竜原に聳える霊峰を棲処とし、長く栄えた。竜大陸には岩盤がなく、冥界の溶岩が深層に溜まっていたが、ついに霊峰から噴出し、竜は四散した。大平原に去った竜は創界竜に、海に渡った竜は創海竜に、火口から冥界に潜った竜は冥界竜に、そして死竜の魂は異界に至って異界竜となった。一方、大噴火で冥界から運ばれた菌が霊峰に生着した。
竜は「魂の焔」で実存の魂を滅却し、三界の情報量を調節していたが、その均衡は失われていった。創海竜は被食者を喰らい尽くして絶滅した。冥界竜もほぼ全て渇死し、その魂は冥竜人となった。創界竜のみでは魂の滅却が足りず、創界の「魂の密度」は高まり続けた。創界人の魂は地に潜り、岩盤を越えて冥界で辺境人となるか、最深層に穢響として堆積し、躯と化して地上に湧くようになった。
第二項:悠竜時代と太古の遊人
創界竜の「竜の焔」が穿った創異円を通じて、創界人の魂の一部は異界に転相されるようになった。やがて創異円から異界人が現れ、「魂の憩」を求めて集まった創界人とともに、地下の創異円を禁殿で覆い、これを「魂の安処」とした。創界人は禁殿の地上に村を作り、三界語が生まれ、竜と魂の信仰が始まった。この悠竜時代の末期までに、創界人の宗教観が定まった。
後に「太古の遊人」と呼ばれる創界人が、創異円の秘密を解明すべく旅立った。彼は、竜が見捨てた大竜原から冥界に潜り、枯屍竜を屠って飛異魂を創造した。さらに、霊峰に据えた飛異魂の力で異界に進出し、異界竜を退けて竜卵と竜翼を創界に持ち帰った。以降、竜卵の奪還を目的に、異界人が創界に介入するようになった。
魂を異界に転相する飛異魂は、新たな「魂の安処」となり、竜大陸各地の創界人が大竜原に移住した。村に残った人々は悠民として古来の伝統を守った。「太古の遊人」は大竜原の民を指導し、創界語を定め、飛異魂を聖座として祀る聖殿の建設を指揮した。太古文明が興り、太古人は大竜原を「太古の大地」と称した。「太古の遊人」は「最初の聖座」として太古文明を統治したが、「最初の聖殿」が落成した朝、竜卵を抱えて霊峰の頂から竜翼で彼方へと飛び去った。
第三節:古世紀
遺聞の時代。古世紀は、文書記録のない先史時代と定義されるが、一部の出来事は、ギルド連合の{禁書図書館}所蔵の書物に記録されている。古世紀の年代は、「旧世紀元年の〇年前」を意味する「古世紀〇年」として表記される。
第一項:太古文明・太古の崩壊・央玉の残光
霊峰の聖殿に祀られた聖座によって、太古人は「魂の憩」を得た。「魂の密度」は低下し、創界竜は姿を消した。聖殿は定期的に新築され、落成の都度、統治者が「開座の儀」を執り行った。一連の大行事は太古文明の発展を加速した。坑道は極深層にまで達し、冥界素材が採掘された。「太古の大地」には、農耕と牧畜を営む回廊集落が広がり、その中心には、還座を祀る聖院が建設された。
太古文明は彩金時代と呼ばれる絶頂期を迎えた。しかし、その白眉となる「純白の聖殿」の「開座の儀」の夜、地殻変動によって「太古の大地」は崩落し、央海と化した。最深部には岩盤層が形成され、創界と冥界は隔絶された。聖殿は開座されず、「太古の安処」は失われた。この一連の事象を「太古の崩壊」という。
霊峰の頂は央海上に残り、央玉島となった。崩壊を免れた「純白の聖殿」の中で生き延びた数人は、後に「央玉の残光」と呼ばれた。大多数の太古人は落命し、彼らの魂は、憩を求めて冥界への旅路を辿るか、憩を待って未開座の聖座に取り憑いた。
第二項:第一帝国の成立(冥界)
「最後の聖座」となった統治者とその同胞の魂は、冥界辺縁に到達した。憩を求める旅路の途上、彼らの魂は次々に躯と化し、辺境人へと変貌した。窮した一行は、「冥界の安処」となる「黒白の聖殿」を築いた。聖座たる飛異魂は再現できず、還座で代用した。還座によって躰を得た「最後の聖座」は、皇帝として第一帝国の開座を宣した。そのとき、辺境で「最後の冥界竜」が息絶えた。竜魂は聖殿に飛来し、還座で生を得て、初の帝国人となった。皇帝は喜び、この竜姫を皇女として迎えた。続いて、太古人の同胞の魂も帝国人へと転生した。これ以降、創界人の魂は第一帝国を目指すようになった。一方、冥竜人は「冥竜人の要塞」を、辺境人は「辺境人の砦」を築いて第一帝国に対抗した。
第三項:深層文明の発展(創界深層)
「太古の崩壊」を生き延びた太古人は、太古文明の南限である大豊原の小ブルスケッタ西部に集結した。彼らの多くは、再興を期して共同体を構築し、古代文明の礎を築いた。一部の者は、海底に沈んだ同胞の探索を志し、「太古の坑道」を下降して深層に向かった。これが深層文明の始まりとされる。
深層人の調査は最深層の岩盤に遮られたが、彼らは拠点を建設しつつ、探索範囲を南へと拡大していった。各拠点は深層都市として整備され、独自の技術が発展した。掘削と動力の技術は深層空間を拡張し、資本技術は古代文明との交易を支えた。瞠目すべきは操魂術の確立であった。深層文明の最盛期である黒金時代には、創冥門の開発に成功し、岩盤を越えて冥界との往来が可能となった。
冥界の大規模な探索にも関わらず、太古文明と同胞の痕跡は発見されなかった。深層人の有志は、そもそもの南進が誤りであったと考え、深層探索を西へと転換した。地層の背斜に沿って進んだ彼らは、大雪原の高台である「太古の台地」に辿り着いた。深層人は、この地に表層都市を築いて探査を続けたが、太古文明の名残は確認できず、やがて表層都市を放棄し、冥界の探索に戻った。
第四項:古代文明の発展(創界地上)
小ブルスケッタ西部の民主共同体は、民集堂を中心とした古代文明として発展していった。豊饒な森林域である小ブルスケッタ東部は、大農園地帯として開墾され、潤沢な食料を供給した。開拓はさらに進み、大ブルスケッタ各地の政庁であった民集堂は、個別の機能に特化した院に分化し、古代十二院の体制が整えられた。
深層文明との交易は、古代文明に鉱貨という資本をもたらし、技術交流は科学の発展を促した。古代人は、民主主義・資本経済・科学技術を重要な社会理念と位置付け、これを象徴する白金三柱を建造した。古代文明の全盛期である白金時代には、後世にまで引き継がれる社会基盤が構築された。
第五項:辺境伯の進軍
央玉島で「最後の太古人」が息絶えた。彼の魂は、聖座に憑依していた幾千幾万の魂と一体化し、冥界の旅路を辿ったが、第一帝国を目前に辺境人へと堕した。ほどなく彼は、圧倒的な武力で、辺境の冥竜人と辺境人を従え始めた。これを見た皇帝は、彼を辺境伯に任じ、辺境の平定を命じた。辺境伯軍は、第一帝国の周囲に辺境伯領を打ち立て、力を蓄えた後、反旗を翻して皇帝を滅却した(辺境伯の叛乱)。皇女は、「皇女の騎士」の導きで央玉島に避難し、「純白の聖殿」を第二帝国として開座した(皇女の光臨)。
辺境伯は、第一帝国地下の創冥門から第八深層都市に滲出し、深層文明を破壊し尽くした後、第一深層都市から地上に侵攻した(辺境伯の滲出)。深層人は深層都市を放棄し、古代文明の援助を恃んで地表へと脱出した。
小ブルスケッタ西部に現れた辺境伯は、一昼夜のうちに執法院を破壊し、白金三柱を粉砕した(辺境伯の蹂躙)。救援要請のため深層都市に向かっていた「執法院長の息子」は、逃亡中の深層人と邂逅し、創界の危機的状況を認識した。彼は「古代の客人」として深層人に迎えられ、以後の行動を共にした。
第四節:旧世紀
伝説の時代。旧世紀元年は、歴史記録の開始年と定義されるが、実際には、ギルド連合の結成年である。したがって旧世紀は、歴史時代としては異様なことに、「辺境伯の蹂躙」という混乱の中から始まる。
第一項:ギルド連合・同盟
- 深層人たちが大雪原の表層都市へと逃避行を継続。
- 表層都市に到達、深層文明の炎を継承する「残り火の子ら」を自称。
- 表層都市(後のギルド本部)で「残り火の子ら」がギルド連合を結成(旧世紀元年)。
第二項:同盟戦争
- 皇女・古代文明・ギルド連合が対辺境伯同盟を締結。
- 巫女ギルド・咒者ギルドは同盟に反対し、ギルド連合を離脱。
- 同盟軍と辺境伯軍との戦いが続く。
辺境伯の討伐 (The Defeat of The Margrave)
- 同盟軍と辺境伯軍の激烈な最終決戦。
- 辺境伯は戦将の部隊が辺境伯を討伐。
- 崇禍原の形成。
- 同盟戦争の英雄(円卓の英雄)が古代文明各地に諸侯として封じられ、ブルスケッタ王国が成立。
辺境伯の封印 (The Sealing of The Margrave)
- 辺境伯の魂が憩を求めて第二帝国へ。
- 第二帝国で皇女が辺境伯を封印。
- 皇女は行方不明(隠れた皇女)。第二帝国は沈黙。
- 一連の真相を知るのは「皇女の騎士」のみ。
第三項:ブルスケッタ王国・ギルディアン連絡体・アトレド共和国
- ブルスケッタ王国の成立
- ギルド連合がギルディアン連絡体に発展
- アトレド共和国の建国
- 復魂宗の成立
- 聖教団の成立
第四項:聖教団・復魂宗・匪民
- 女神信仰、皇女再臨、第三帝国の創建を目的とし、王国各地で布教活動。
- 辺境伯の復活を目論む復魂宗が聖教団を許すはずもなく、王国に介入。
- 王国諸侯に食い込んでいたギルディアン連絡体も、復魂宗と衝突することに。両者は同盟戦争時から対立していた。
- 辺境伯が討伐・封印され、辺境伯の鎮魂・復活を目的とする復魂宗が成立。
- 崇禍原を本拠に、社殿・寺院の建立が開始。
第五項:黄金時代
- 創界文明の成熟期。
- 創界人が同盟戦争からの復興に注力した活気溢れる時代。
- 大ブルスケッタの七諸侯の領地で独自の文化・建築が発達。
- 皇女は、聖女 (The Saintess)・天使 (The Angel)・女神・竜姫 (The Dragoness) として神格化。
- 「皇女の騎士」の活躍は、守護神 (The Guardian) の物語として伝承。
- 各地で同盟戦争での勝利を称える建築や、皇女(聖女・天使)、皇女の騎士(守護神)、円卓の英雄などの像が建立。
- 同盟戦争の伝説や伝承は、人口に膾炙する中で次第にその内容が多彩に変容していく。
第五節:前世紀
歴史の時代。
第一項:百年戦争と絢金時代
- 創界文明の爛熟と勢力間の戦乱の時代。
- 共和国を除く全ての勢力の利害が対立した結果、武力を有する諸侯間が相争う戦乱の時代に。
- 諸侯は代替わりをしつつ合従連衡を繰り返し、ギルディアン連絡体・聖教団・復魂宗も巻き込み・巻き込まれ、百年ともいわれる戦争状態が続く。
第二項:大厄災 (The Great Catastrophes)
- 戦乱に倦み疲れた創界人を襲った天災の連続。
- 火山、津波、地震、気候変動、疫病、隕石(クレーター)などあらゆる自然災害を含む。
- モンスターの出現など超常現象の記録や伝承もあるが、大混乱のため真偽が疑わしいものも多い。
- これらには異界の影響・関与があったとも考えられている。
- 百年戦争で疲弊し続けていた王国に大厄災がとどめを刺し、再建不能に近いダメージを受ける。
- 古代文明・王国に伝わる記録などもほとんどが散逸。
- その結果、現世紀に伝わる歴史や記録はギルド連合が大元となるが、正確とは限らず、ギルド連合の利益となるよう改竄されたものが意図的に流布されている場合もある。
第六節:現世紀
現在。
第七節:文明系
悠竜時代に始まった創界人の文明は、「太古の崩壊」以降、深層系と古代系の二つの文明系に大きく別れる。さらに、太古文明・第一帝国・第二帝国の系譜を第三の文明系とし、太古系や帝国系と称することもある。ギルド連合や同盟は、歴史の混乱期に現れた一時的な勢力であり、文明とはされない。また、各地に散在している悠民も、一つの文明とは見なされない。
フロー:文明系
悠竜時代┬────────────────悠民 └太古文明┬第一帝国─第二帝国─(沈黙) ├深層文明─ギルド連合┬ギルディアン連絡体 │ └復魂宗 └古代文明─同盟───┬ブルスケッタ王国 └聖教団
