第二章:実存
第一節:実存の元素
心存である創界人は、三界の実存を還元的に認識した。実存は、肉・魂・命の三元素からなり、痕を残すという。創界人は与り知らぬが、全ての存在と同様、三元素と痕も識子の顕れ方である。
【肉】粒子性の識子が構成する物質。
【魂】波動性の識子が記録する情報。
【命】波動性の識子から構成された物質。
【痕】粒子性の識子へと記録された情報。
第二節:実存の構成
第一項:肉
実存の物質を構成する粒子性の識子を肉という。実存の肉と他の識子の相互作用を経験という。経験によって識子場に振動が生じ、肉の粒子の一部が波動へと遷移する。波動性の識子に記録された経験の情報を記憶という。
第二項:魂
実存の記憶を記録した波動性の識子を魂という。常界の識子場では魂の波動は安定せず、瞬時に粒子へと遷移する。新生した粒子は周囲の肉と相互作用し、その経験は新たな魂となる。肉と魂の循環的な遷移を縁といい、縁における魂の存在確率を「魂の濃度」という。「魂の濃度」は肉の経験に伴って上昇し、やがて飽和する。過飽和に達した魂は「経験の結晶」として析出する。これを魂珠という。
第三項:命
魂から新たな実存を生す力を命という。「魂の濃度」が飽和した識子場では、波動から粒子への遷移が遅延し、中間体が生成される。これを胤という。一般的に、胤は躰から離脱すると粒子へと遷移し、新たな実存の肉となる。胤を形成する実存を親、胤から生成される実存を子という。胤は親の記憶を記録した波動を内在するため、親の獲得形質は子へと遺伝する。
第四項:痕
第三節:実存の様態
第一項:肉の様態
生と死
物・躰・屍・躯
成長
躰が経験を重ねると、飽和限界を超えた魂が縁から零れる。幼体では、この外縁の魂は肉へと遷移し、躰の一部として復縁する。これを成長という。成長は痕を癒すことがある。成体では、外縁の魂から肉への遷移が遅滞し、胤が生成される。過飽和に達した外縁の魂は、魂珠として析出する。
老化
躰を構成する粒子の配列の擾乱を老化という。経験による痕の形成や、魂との循環的な遷移による肉の代謝は、躰を徐々に老化させる。外傷などの激しい経験による大きな痕は、急激に老化を進行させる。著しく老化した躰は縁を維持できず、命を失い、魂を手放して屍となる。
帰土
死後の屍にも微かな経験は継続的に生じ、肉と魂の新たな縁が紡ぎ出される。縁を得た屍は物へと帰る。これを帰土という。
反魂
肉と絶縁した魂や魂珠を幽魂という。屍から遊離した幽魂は、依代となる物や屍を求めて遊走する。幽魂が無縁の肉を侵すと躯となる。これを反魂という。躯になり損ねた幽魂の波動は、常界では粒子へと遷移して霧となる。
第二項:魂の様態
還魂
屍から遊出した魂珠は、常界でも暫時その結晶性を維持する。魂珠の一部が粒子へと遷移し、成長と類似した過程を経て躰が再構成されることがある。これを還魂という。還魂において、粒子化した波動に記録されていた記憶は失われる。
転相
屍から遊出した魂珠は、遷移せずに異界へと転相することがある。
第三項:命の様態
殖
胤が肉へと遷移し、別の実存である子を生成することを殖という。「生を殖やす」ことから、胤による殖を生殖ともいう。二個体の交配生殖を繁殖、一個体の単為生殖を増殖という。繁殖性の胤を性子、増殖性の胤を種子という。性子や種子から生成された肉は、経験によって魂と縁を結び、子の躰となる。生殖における子は、親とは独立した実存である。
蝕
胤が肉へと遷移せず、他の実存を冒して胤のまま存続することを蝕という。「生を蝕む」ことから、胤による蝕を生蝕ともいう。蝕性の胤を胞子といい、胞子に冒される実存を宿主という。蝕の識子場では、宿主の魂は胞子への遷移を強いられ、肉は縁を失い屍となる。宿主の死によって、胞子が実存の主体となる。生蝕における子は、親から複製された実存である。
第四節:実存の分類
創界人は、肉・魂・命の様態によって実存を分類した。実存は、生・死・魂・命の部類に大別され、さらに三元素の相違に基づいて細分された。
表:実存の分類
第一項:物
物は、魂と結縁しただけの肉のみからなる「生の実存」である。物は、肉の様態であり、それのみからなる実存の分類名でもある。
物は、大地を構成する地物と、有用な資源である鉱物に大別される。地物は、ツルハシで採掘できる岩石と、シャベルで採取できる土砂に細分される。鉱物は、動力源となる活石、希少石である宝石、導電性のある金属に細分される。
表:物の実存
第二項:玉
玉は、物および物と結縁した魂珠からなる「生の実存」である。
岩石に高圧がかかると、肉が圧縮されて「魂の濃度」が高まる。過飽和に達した魂は魂珠として析出し、「魂の濃度」が低下した肉は鉱物へと変性する。生成された、鉱物と魂珠を含む岩石を鉱石という。玉と鉱石は同義である。
表:玉の実存
第三項:偶
一覧:偶の実存
第四項:妖
妖は、魂で飽和した躰に命を宿した「生の実存」である。
表:妖の実存
| 動物 | 木 | 花 | 植物 |
|---|---|---|---|
| アレイ コウモリ サンゴ ・クダサンゴ ・シカツノサンゴ ・ノウサンゴ ・ミズタマサンゴ ・ミレポラサンゴ シーピクルス【萌】 ホタル | アカシア オーク サクラ シラカバ ダークオーク タケ ツツジ トウヒ ペールオーク マツ マホガニー マングローブ | 【葵】アリウム 【黒】ウィザーローズ 【碧】ウツボカズラ 【桜】シャクヤク 【白】スズラン 【黄】タンポポ チューリップ ・【赤】赤チューリップ ・【朧】朧チューリップ ・【桜】桜チューリップ ・【橙】橙チューリップ 【朧】デイジー 【橙】トーチフラワー 【赤】バラ 【空】ヒスイラン 【橙】ヒトミソウ(開) 【灰】ヒトミソウ(閉) 【朧】ヒナソウ 【黄】ヒマワリ 【赤】ポピー 【青】ヤグルマギク 【葵】ライラック 【黄】ワイルドフラワー | ウィード カカオ【茶】 カボチャ グラス グロウベリー コケ ・朧コケ コムギ コンブ サトウキビ サボテン【緑】 シーグラス シダ ジャガイモ スイートベリー スイカ スイレン ツタ ドライグラス ドリップリーフ ニンジン ビートルート【赤】 ブッシュ ホタルソウ |
第五項:獣
獣は、魂で飽和した躰に魂珠を懐き、命を宿した「生の実存」である。
表:獣の実存
第六項:屍
屍は、魂と絶縁した肉のみからなる「死の実存」である。屍は、肉の様態であり、それのみからなる実存の分類名でもある。
一覧:屍の実存
第七項:幽
幽は、物や屍が魂に侵されて反魂し、躯となった「死の実存」である。
一覧:幽の実存
第八項:鬼
鬼は、物や屍が魂珠に侵されて反魂し、無縁の魂珠を懐く躯となった「死の実存」である。
表:鬼の実存
第九項:猥
猥は、鬼が新たに命を宿した「死の実存」である。
一覧:猥の実存
第十項:仙
仙は、魂珠と、その一部が還魂して再構成された躰からなる「魂の実存」である。
表:仙の実存
| 創界 | 冥界(帝国人) |
|---|---|
| ガーディアン ・エルダーガーディアン | 帝国人 ・皇女 ・皇帝 |
第十一項:夢
夢は、異界へと転相した魂珠のみからなる「魂の実存」である。
一覧:夢の実存
第十二項:菌
菌は、魂が胞子へと遷移し尽くした、屍と命からなる「命の実存」である。
表:菌の実存
第十三項:痾
一覧:痾の実存
第十四項:傀
傀は、痾の蝕が進行した「命の実存」である。
胞子が獣の縁を蝕み、肉と魂が絶縁すると傀となる。胞子に冒された鬼も傀という。傀の魂珠が胞子へと遷移し尽くすと、傀は菌となる。
表:傀の実存
第十五項:結
結は、胞子が夢を冒した「命の実存」である。
結は、胞子と夢が共存する異界の実存である。蝕の識子場において、夢の魂珠は胞子へと遷移する。同時に、異界の識子場において、胞子の粒子性は波動性の魂へと遷移する。魂と命の循環的な遷移を怨という。
一覧:結の実存
第十六項:奇
奇は、上記の十五種に分類されない実存である。
表:奇の実存
第五節:実存の本質
創界人による実存の認識と分類は、識子の顕れ方の不完全な理解に過ぎない。唯一の意義は、創界人が自らの本質は魂にあると信じたことにある。この実存観が三界の物語を駆動する。
