第三章:物語
第一節:言葉と物語
言葉は一般的に、「創界人が自らを識ろうとする欲求の発現」と理解される。言葉が表現する対象は、実存を起点として識子から宇宙までの全ての在り方に及ぶ。
言葉による存在の描写を物語という。物語の内容は倫理と実像に、形式は原話と理論に大別される。倫理は「存在のあるべき姿」、実像は「存在のあるがままの姿」の物語である。原話は「言葉の構成的な展開」、理論は「言葉の論理的な接続」である。
倫理の原話を信仰、倫理の論理を哲学、実像の原話を歴史、実像の理論を科学という。各物語が到達すべき「存在の真の姿」の物語を真理という。
表:物語の分類
| 真理 | 原話 | 理論 |
|---|---|---|
| 倫理 | 信仰 | 哲学 |
| 実像 | 歴史 | 科学 |
第二節:物語と実存
「存在とは何か」を問う創界人の物語は、実存の探求から始まる。
第一項:死者と殯
創界人の原始的な葬礼では、腐朽するまで死者の肉体を安置し続ける。これを殯という。殯の目的は、蘇生の監視と、竜への抵抗である。創界では、竜の火によって頻繁に創界人が滅却されていた。殯は、竜禍を生き抜いた死者が静穏に死を全うする儀式であった。死を過ち蘇った実存は、冥界に堕ちるとされた。
第二項:肉・魂・命
創界人は、殯における死者の肉体の変遷を見守る中で三元素を見出した。死者は肉体を残して意識を失うことから、生は肉と魂からなるとされた。死者の肉体に茸が生えることから、肉は魂とは別に命を宿すとされた。大多数の創界人にとって、魂とは魂珠であった。
第三項:魂の物語
創界人は、自らの本質が魂にあると信じた。創界人が識るべき「存在の姿」とは「魂の姿」である。創界人は魂を識るために言葉を紡ぎ、物語を編んだ。
魂の旅路
魂の行方
「魂の旅路」を経て死を全うすることで、魂は肉から解脱する。この最終的な結末を「魂の行方」という。魂が三界で永遠の安息を得ることを「魂の憩」、魂が三界から完全に消滅することを「魂の歿」という。創界人にとって、「魂の憩」は生を超越する歓喜、「魂の歿」は死を凌駕する恐怖であった。
第三節:倫理
創界人が思索した「存在のあるべき姿」の物語を倫理という。倫理は創界人の主観的な行動規範である。
魂の純度
「魂の旅路」は、魂の質である「魂の純度」によって異なる。高純度の魂は死を遂げ、低純度の魂は死を過つとされた。
罪・罰・業
第一項:信仰
倫理を遵守するための原話を信仰という。信仰の究極的な使命は、全ての魂を赦すことである。
魂の救済
実存を「魂の憩」へと導くことを救済という。
魂の復活
実存が「魂の歿」から蘇ることを復活という。
決定説
魂は操作不能という立場から、「魂の行方」は業によって絶対的に決定されるとする主張を決定説という。人民支配や社会秩序の維持に都合が良く、封建的な国家制度と親和性が高い。不安定な世相では、人々の無気力や社会の停滞を招きやすい。
未定説
魂は操作可能という立場から、「魂の行方」は業の影響を受けるが未定であるとする主張を未定説という。個人主義や実力社会の発展と相性が良く、革新的な思想信条と融和性が高い。流動的な時代には、刹那主義や反体制主義へと転化しやすい。
第二項:哲学
倫理を省察するための理論を哲学という。哲学の本質的な課題は、魂と存在を繋ぐことである。
実存論
実存は肉・魂・命の三元素からなるとする三元論の哲学を実存論という。実存論は常に哲学の中心であり、心存としての創界人の立脚点であった。実存論の進歩は他の物語を進展させ、他の物語の進行は実存論を進化させた。
心存論
「心存とは何か」を問う哲学を心存論という。心存に不可欠の要素、心存が発する言葉、竜の心存性などが研究された。
霧気論
非実存的存在である霧と気の哲学を霧気論という。霧や気の元素、実存との関係性、{連続体仮説:霧が凝集して実存となり、霧が崩壊して気となるという、全ての存在は霧の連続的な動態であり、三界は霧の世界であるとする説}などが研究された。
存在論
全ての存在を包括する哲学の構想を存在論という。
第四節:実像
創界人が観察した「存在のあるがままの姿」の物語を実像という。実像は創界人の客観的な認識基盤である。
第一項:歴史
実像を熟知するための原話を歴史という。歴史の根元的な責務は、魂の軌跡を記すことである。
通史
創界の出来事の網羅を試みた「歴史の織物」を通史という。通史は「魂が肉から解脱する物語」として創界人に広く読まれた。
行史
創界人の活動分野を整理した「歴史の横糸」を行史という。行史を編纂する過程で、政治・経済・法律などの学術が発達した。
列伝
創界人の業と因果を追跡した「歴史の縦糸」を列伝という。列伝を執筆する過程で、正義・浪漫・虚無などの思想が成立した。
篇志
創界に伝わる逸話を陳列した「歴史の刺繍」を篇志という。篇志を蒐集する過程で、文学・美術・演劇などの芸術が開花した。
遺亡
隣存
第二項:科学
実像を考究するための理論を科学という。科学の核心的な意義は、魂を論理で繙くことである。
自然
摂理学
命存学
子を産む実存を命存といい、命存の科学を命存学という。命存の科学を他の命存を摂食する命存を動物、水や光を摂取する命存を植物、他の命存に感染する命存を菌蕈という。命存学が描写する三界は、「魂と命が肉を奪い合う世界」である。
工学
科学技術の社会実装を工学という。摂理学や命存学の深化は、電気工学や育種工学などに結実した。工学の悲願は、魂を制御する実存工学の確立である。歴史的に、科学と工学の発展は連動していない。工学の普及は、資材や認知の不足という経済・心理的な障壁に阻まれ続けた。
第五節:真理
創界人が希求した「存在の真の姿」の物語を真理という。真理は創界人の絶対的な存在原理となり得る。
