目次
章:深層文明
第一節:概要
深層文明は、創界の深層で繁栄した文明。本来は座標を基準とした空間的な文明だが、時間的な関心も深く、現世紀に残る最古の史料は深層文明のものである。
記録:禁書『{岩盤を越えて}』
「太古の崩壊」によって「太古の大地」は海没したが、南限に位置するブルスケッタ地方はかろうじて崩壊を免れ、人々の再起の地となった。深層文明の歴史は、ある鉱夫の一団が、大地の底に沈んだ同胞の探索を志したときに始まる。わずかに残っていた「太古の坑道」(後の縦脈路)を粗末な道具で掘り進め、最深層に到達した彼らが目にしたのは、厚く形成された岩盤であった。後に深層人と呼ばれる彼らは、岩盤を突破し、同胞の痕跡を探し出して地上に持ち帰ることを固く誓い、最深層に拠点(後の「太古の深層都市」)を置いて地質の調査に邁進した。その結果、「太古の大地」のプレートは南ないし西に沈み込んだと推定された(南沈説と西沈説)。深層人は、南沈説を採用し、総力を挙げ、南に向かって深層空間を拡大していった。やがて、深層の各拠点が発展して深層都市となり、驚異的な掘削術とそれを支える蒸気動力に加え、地上とは全く異なる操魂術も開発された。岩盤の破壊は、彩金時代までに極深層から発見されていた「太古の残骸」に託されていた。この信じ難く硬い原石は、製錬法すら確立されておらず、「太古の坑道」の奥に積み置かれていた。すでに複数の都市からなる連合国家を形成していた深層人は、その総力を結集し、穢躯を燃料とする「魂の熾」の生成に成功する。超高温を発するこの滅紫の熾火は、「太古の残骸」からネザライトの製錬を可能にし、深層人はついに最硬の掘削機を手中に収めた。だが、無情にもネザライトは岩盤に弾き返される。呆然とする一団の片隅で、一人の咒者が呟いた。「岩盤を越えるだけなら、壊さなくてもよくて?」
記録:禁書『{燃える黒曜石}』
黒曜石は創界で最も堅固な岩石の一つだが、坑士のダイヤモンド道具で採掘ができる程度であり、岩盤の破壊には使えなかった。黒曜石は溶岩を水で急冷することで生成され、炉匠による生産と坑士による掘削によって、深層文明では素材として比較的よく用いられた。第六深層都市では、黒曜石を材料とする写魂卓を介して、躰が持つ記憶を魂珠として抽出する技術が発達し、やがて魂そのものを物質に刻印する写魂術が確立された。第七深層都市では、黒曜石を加工した招魂函によって、穢響の寂しい魂から穢躯を産む方法が考案され、最終的に、魂が保持する姿と記憶を再現する招魂術として結実した。この術を修めた咒者たちは、深層都市に蔓延る穢響を次々に穢躯へと変換し、最深層から寂しい魂の残滓を一掃した。このとき湧き出た穢躯は、炉匠の溶岩炉で浄化されたが、その際、超高温を発する「魂の熾」が生成された。ほどなく、この滅紫の熾火は黒曜石を燃やし、魂の触媒作用をさらに高めることが判明する。「燃える黒曜石」は、新しく完成した第八深層都市に運び込まれ、創冥門の研究が始まった。
深層人は創冥門を完成させ、創界から冥界への進出を果たす。しかし、深層人の冥界進出は辺境伯の逆鱗に触れ、彼の創界への滲出を招くことになる。古世紀末、深層文明は完全に滅亡し、深層には崩壊した都市群だけが取り残された。
第一項:深層人
深層人は、「太古の崩壊」により失われた文明と同胞の痕跡を探索し、回収することを自らの使命としていた。彼らは、太古人の魂の行方に無関心な古代人を、どこか「薄情」と感じていた。深層人と古代人の間には、交易を介した定期的な連絡があり、対立はなかったが、信頼関係もなかった。深層人は、古代人の縦脈路への立入を禁じ、深層都市に招くこともなかった。
深層人の内在原理
{日周も日照もない深層では、時間や方角の感覚が曖昧になる。深層人の空間や時間の概念は、古代人と比較して極めて抽象的である。これが、深層人が何世代にも渡って「太古の崩壊」の痕跡を探索し続けた理由である。それは異常な執念ではなく、抽象化された時空間の感覚によるものである。深層人の風習の中には、潜水艦乗りのように、かつて太古人であった頃の時空間の感覚を忘れないようにする儀式などもあった。現在は形骸化しているかもしれないが、それで重要な風習として続いている}
深層人の食糧
表:深層で栽培可能な植物・菌蕈
リスト:深層人の職業
【坑士】掘削技術者。鉱石の採掘、深層都市の建設。
【炉匠】火力技術者。熱蒸気機関を開発、鉱石の製錬。
【巫女】鎮魂術者。穢深層の浄化、深層の安全確保。
【貨商】資本技術者。鉱商の運営、鉱貨の発行、古代文明との交易。
【薬師】医術者、錬魂術者。錬魂薬の作成。
【司書】記録者、写魂術者。歴史の記録と保管、写魂書・写魂盤の作成。
【咒者】招魂術者。穢躯の召喚、「魂の熾」の提供。
【門吏】越魂術者。創冥門の開発と運用。
第二節:深層都市と表層都市
深層都市は、最深層に建築された大規模な都市。中心に大型の創冥門が設置され、都市内の建物は長大な回廊で結ばれている。
記録
深層人が創界の最深層に構築した巨大な都市。中心には巨大なポータル状の構造物があり、都市内の各施設は、中期太古様式から発展した長大な回廊で連結されていたという。最終的に八ないし九の深層都市が建築され、各都市で独自の技術が発達し、連合国家が形成されたと伝えられる。しかし、古世紀末、「辺境伯の滲出」によって深層文明は滅亡し、正確な都市数は現在も確定されていない。一説には、央海の底に沈んだ太古文明の栄華を地底で再現することが目的だったともいう。
地図:深層都市と深層廊
表層都市 ブルスケッタ []深層都市 │ │ ()深層廊 縦層路 縦脈路 │ │ └───────-(西深層廊)──────[太古] │ [第六] │ │ ┌────(南深層廊) (四六) │ │ │ │ │ [第五]-(四五)-[第四]-(一四)-[第一]-(一二)-[第二]-(二三)-[第三]-(三七)-[第七] │ (一八) │ [第八]
表:深層都市の機能と構造
| 深層都市 | 職業 | 技術 | 色 | 創界座標 | 方角 | 開始 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 太古の深層都市 | - | - | 白色 | 《-256, -51, 160》 | 北向 | 20250416 |
| 第一深層都市 | 坑士 | 掘削 | 朧色 | 《-664, -51, 1256》 | ||
| 第二深層都市 | 炉匠 | 火力 | 昊色 | 《-248, -51, 1160》 | 20250706 | |
| 第三深層都市 | 巫女 | 鎮魂術 | 紫色 | 《88, -51, 1272》 | ||
| 第四深層都市 | 貨商 | 資本 | 萌色 | 《-1096, -51, 856》 | ||
| 第五深層都市 | 薬師 | 医術・錬魂術 | 赤色 | 《-1400, -51, 856》 | ||
| 第六深層都市 | 司書 | 記録・写魂術 | 青色 | 《-1032, -51, 536》 | ||
| 第七深層都市 | 咒者 | 招魂術 | 碧色 | 《536, -51, 1160》 | ||
| 第八深層都市 | 門吏 | 越魂術 | 黒色 | 《-1064, -51, 1560》 | ||
| 表層都市 | - | - | 《-1536, 135, 0》 |
第一項:太古の深層都市
「太古の深層都市」は、「太古の崩壊」後も残っていた「太古の坑道」の最下層に建設された深層都市。もとは最深層の探索拠点であり、この地点の岩盤を調査した結果、「太古の大地」は南側に沈み込んだと判断され(南沈説)、深層人は南深層廊)を通しながら南進していった。
当時は穢深層の穢澱を抑制する技術がなく、本拠点は長らく放置されていた。しかし後に、第三深層都市で成立した鎮魂術によって本拠点の安全が確保され、「太古の深層都市」として拡張された。都市としての成立時期は、第二鎮魂術の確立後、すなわち第四深層都市の貨商による交易の開始前後と考えられているが、正確な時期は確定されておらず、都市番号も振られていない。また同時期に、本都市から地上へ出る「太古の坑道」も縦脈路として整備された。その結果、「太古の深層都市」は古代文明との交易拠点となり、鉱石や食料の集積および保存に利用された。古代人が立ち入る可能性があったため、この都市には創冥門は設置されなかった。そのため、「辺境伯の滲出」では致命的な破壊を免れ、深層人たちは縦脈路を通って地上に避難することができた。
深層人の冥界進出後、西沈説が見直され、一部の深層人によって「太古の深層都市」からは西深層廊も伸ばされた。その先の地上に建設された表層都市は、「辺境伯の進出」を逃れた深層人たちによって、ギルド連合本部として再利用された。同盟戦争時、西深層廊はギルド連合と古代文明を結ぶ回廊として拡大され、「太古の深層都市」は古代文明側の拠点として再整備された。
現世紀では、直上に「スズランの家」がある。
第二項:深層都市
第三項:表層都市
表層都市は、東西100メジャー、南北200メジャー、標高135メジャーの「太古の台地」上に、西沈説を信じる深層人が築いた都市。彼らは、「太古の大地」のプレートが褶曲してこの台地が形成されたと考えている。台地の南端には、地下の西深層廊から伸びる縦層路の出入口があり、台地上には、各深層都市の技術者の居住区が築かれた。表層都市は後にギルド連合本部となり、居住区は各ギルドの会館として再利用された。
記録:西沈説と表層都市
南沈説を採用した深層人は、都市を建設しながら深層空間を南へと拡大し、ついには創冥門によって岩盤を越えることにまで成功した。しかし、冥界に至ってもなお、太古文明と同胞の痕跡を発見することは叶わなかった。一方、各深層都市の有識者や好事家らの間では、西沈説が改めて検討されていた。彼らは、深層文明の原点である「太古の都市」に集まり、最新の技術を用いて岩盤層を再調査した。その結果、西沈説は信ずるに足ると判断され、まるで盗掘のように西深層廊を堀り進め、密かに西に向かっていった。長い掘削の果てに、彼らは、穢深層が絶壁に沿って垂直に広がっている地点に辿り着いた。ほどなく、この穢深層は、褶曲による地層の背斜であることがわかった。すなわち、「太古の大地」は西側に沈み込んだのではなく、押し上げられたことが示唆された。太古文明の痕跡は、地表近くの浅い層に存在するのではないか。そう考えた彼らは、深層文明の歴史で初めて、上方への掘削を開始した。魂砂を用いた大型の縦水路である縦層路が、この新工法を支えた。やがて彼らは、地表に到達する。そこは大雪原が隆起してできた複雑な丘陵であった。彼らは、同胞探索の拠点として、この地に表層都市を築いた。
第三節:坑士の第一深層都市
第一深層都市は、一番目に建設された深層都市。{建設時期}。坑士ギルドの母体。深層文明の中央に位置するこの都市は、深層人にとって首都でもあった。「辺境伯の滲出」の際、地上に侵攻しようとした辺境伯によって、深層から地表にまで続く「大穴」が穿たれた。現在の第一都市は、陽光と大量の雪解け水が降り注ぐ空間となっている。
黒曜石の採掘。
第四節:炉匠の第二深層都市
第二深層都市は、二番目に建設された深層都市。{建設時期}。炉匠ギルドの母体。
炉匠は、火力技術者。深層では石炭や木炭が使えなかったため、溶岩を用いた熱蒸気技術を確立し、深層空間の動力を支えた。また、溶岩を原料として黒曜石や玄武岩を生成し、操魂術や建築に供した。黒金時代には「魂の熾」を用いた炉の開発によって、ネザライトの製錬に成功する。
第五節:巫女の第三深層都市
第六節:貨商の第四深層都市
第一項:貨商
貨商は、資本技術者。鉱貨の生産と発行を担い、鉱石や鉱貨の取引所である鉱商を運営した。
深層文明と古代文明の交易は、鉱石と食物の物々交換から始まった。貨商が運営する鉱商は、元々は両者の取引所の名称であった。やがて深層人は、交易の円滑化のため、鉱石の代わりに鉱貨を用いるようになった。古代人にとって鉱貨は、計量しやすく加工された鉱石でしかなく、そのためしばしば鋳直され、資源として再利用された。一方、深層人は、鉱貨の使用を通じて、経済や資本の概念を確立し始め、異なる種類の鉱貨を使い分けることで、古代人との交易を有利に進める術を見出した。資源の「鉱」ではなく、資本の「貨」を扱う技術に目覚めた彼らは、自らを「貨商」と名乗るようになった。
貨商が発行する鉱貨は、深層の都市内および都市間でも貨幣として流通し、第四都市の各鉱商は、物資や技術の交流拠点でもあった。
表:鉱商と鉱貨
| 鉱商 | 鉱貨 | 色 |
|---|---|---|
| エメラルド鉱商 The Emerald Orebank | エメラルド鉱貨 The Emerald Orecoin | 萌色 |
| 石炭鉱商 The Coal Orebank | - | 灰色 |
| 銅鉱商 The Copper Orebank | 銅鉱貨 The Copper Orecoin | 橙色 |
| 鉄鉱商 The Iron Orebank | 鉄鉱貨 The Iron Orecoin | 朧色 |
| 金鉱商 The Gold Orebank | 金鉱貨 The Gold Orecoin | 黄色 |
| ラピスラズリ鉱商 The Lapis Lazuli Orebank | ラピスラズリ鉱貨 The Lapis Lazuli Orecoin | 青色 |
| レッドストーン鉱商 The Redstone Orebank | レッドストーン鉱貨 The Redstone Orecoin | 赤色 |
| ダイヤモンド鉱商 The Diamond Orebank | ダイヤモンド鉱貨 The Diamond Orecoin | 昊色 |
| アメジスト鉱商 The Amethyst Orebank | アメジスト鉱貨 The Amethyst Orecoin | 紫色 |
| クォーツ鉱商 The Quartz Oreank | クォーツ鉱貨 The Quartz Orecoin | 白色 |
| ネザライト鉱商 The Netherite Orebank | ネザライト鉱貨 The Netherite Orecoin | 黒色 |
第七節:薬師の第五深層都市
第八節:司書の第六深層都市
第六深層都市は、六番目に建設された深層都市。{建設時期}。司書ギルドの母体。紙の原料となるサトウキビの栽培所があった。
司書は、記録者・写魂術者。躰から魂を抽出し、物質に刻印する写魂術を確立した。
司書の始まりは、昼夜も季節もない深層において、暦を管理する者のことであった。
第九節:咒者の第七深層都市
第十節:門吏の第八深層都市
第十一節:回廊・縦路
第一項:縦路
太古の坑道
「太古の坑道」は、「太古の崩壊」後も小ブルスケッタに残っていた太古文明の坑道。{かつては極深層である冥界にまで達していた坑道で、各所に哭曜石・クォーツ鉱石・「太古の残骸」などの冥界素材が放置されていた。}後に、「太古の深層都市」と古代文明を結ぶ縦脈路に改修され、交易路として活用された。
縦脈路
縦脈路は、「太古の深層都市」と小ブルスケッタを結ぶ交易路。「太古の崩壊」後、深層人が地下へと潜行した際に用いた「太古の坑道」が、拡張・整備されたもの。深層文明の鉱石と古代文明の食料を運ぶ交易路として用いられたが、取引は常に縦脈路の地上出口、すなわちブルスケッタ側で行われ、古代人がこの通路に立ち入ることは禁じられた。また、「辺境伯の滲出」の際には、深層人が地上へと脱出するための退避路としても機能した。
縦水路
縦水路は、《水流エレベーター》のこと。垂直の水路の底に魂砂を敷くと、「魂の残滓」が苦しんで気泡を発する。この気泡は、水路中の人や物資を上方に押し上げる力があり、汎用的な浮揚装置として深層文明で広く用いられた。
縦層路
第二項:深層廊
深層廊は、深層都市間を繋ぐ連絡路のこと。深層都市では回廊が発達したが、深層人は、都市と都市を結ぶ隧道も「廊」と呼んだ。
南深層廊
南深層廊は、南沈説に依拠して整備された、「太古の深層都市」と、その南にある「坑士の第一深層都市」を結ぶ深層廊。後に、「太古の深層都市」と「炉匠の第二深層都市」を直結する支道も整備された。深層文明初期の食料として、サトウキビとキノコがこの深層廊の脇で栽培された。サトウキビからは紙が生産され、後に司書と呼ばれることになる者たちによって、深層文明の記録され始めた。
西深層廊
西深層廊は、「太古の深層都市」と、その西にある「表層都市」の地下を結ぶ深層廊。西沈説を信じた深層人たちによって開通された。表層都市がギルド連合本部となってからは、ギルド連合と古代文明を直結する回廊として拡大・整備された。
一二深層廊
一四深層廊
一八深層廊
二三深層廊
三七深層廊
四五深層廊
四六深層廊
第三項:その他の設備
深層濾
深層濾は、深層文明で発達した、巨大な空気清浄設備。深層の密閉空間では、坑士の掘削による粉塵や、炉匠の熱蒸気機関からの廃熱や排気による空気汚染が、常に深刻な問題であった。汚れた熱気を浄化するため、深層都市や深層廊の各所には巨大な吸気口が設けられていた。取り込まれた空気は、銅管によって冷却された後、織地製の濾過層で粉塵が除去され、送気口を通じて深層へと戻された。織地は、クモの糸で編まれたものが使われた。
冥界廊
冥界廊は、創冥門によって冥界に進出した深層人が、「太古の残骸」が最もよく採掘される冥界高度《16》メジャーの地層に掘った隧道。各方面に伸びた冥界廊はやがて、「辺境伯の要塞」の地下に突き当たり、「辺境伯の叛乱」の引き金となる。
第十二節:操魂術
操魂術は、深層都市で体系化された、魂を操る技術の総称。一般的には、操魂四術(鎮魂術・錬魂術・写魂術・招魂術)が知られる。越魂術、望魂術、復魂術、滅魂術の四術は、限られた者しか使えない、現在は失われている、いまだ完成していないなどの理由で、不明な点も多い。
第一項:鎮魂術
鎮魂術は、深層文明において、穢深層における穢澱の出現を抑制し、深層の安全を確保するために発展した一連の技術。第一鎮魂術と第二鎮魂術がある。第三深層都市で確立され、鎮魂術を修めた者は「巫女」と呼ばれた。
第一鎮魂術
深層人による穢深層の研究は、多大な犠牲を伴いながらも進展し、やがて穢深層群体説へと帰結した。また、一部の坑士の間では、穢調とアメジストが共鳴することが知られていた。これらの知識をもとに、第三深層都市で開発されたのが、振動や「魂の気配」を吸収する穢鎮である。深層都市の各所に設置された穢鎮は、掘削や熱蒸気機関から生じる膨大な音や振動を吸収し、穢調による感知を阻む。これにより、穢深層の静寂が保たれるようになった。穢鎮の調律を担い、鎮魂術を修めた深層人は「巫女」と呼ばれた。
第二鎮魂術
穢鎮によって穢深層は鎮静されたが、その本質的な危険性は排除されていなかった。深層都市群が拡大するにつれ、深層人は穢深層を一掃し、深層の完全な安全を確立する必要に迫られた。以前から、穢調とアメジストを組み合わせて穢鎮を作成していた巫女たちは、穢響と「アメジストの晶洞」が隣接する一帯では、穢響が魂砂へと変化し、「アメジストの芽」が異常な早さで成長することに気付いていた。この頃、熟練の坑士は、繊細な鉱石を破壊することなく、そのままの形で採掘するシルクタッチの技術を体得していた。これにより、安全地帯にある「アメジストの晶洞」から「アメジストの芽」を採掘し、穢響に「植える」ことが可能になった。穢響に移植された「アメジストの芽」は、「寂しい魂」を集積して瞬く間に「アメジストの塊」に成長し、一方、魂が希薄化した穢響の残滓は、魂砂や魂土へと変質した。以降、穢深層は順次駆逐され、深層文明は大量のアメジストと魂砂・魂土を得るに至った。アメジストは、第四深層都市の貨商による古代文明との交易に使われ、魂砂は、縦水路の構築や、第五深層都市の薬師によるウォートの栽培に用いられた。魂土と溶岩と凍氷から生成された玄武岩は、深層都市の建材に使われた。また、魂砂や魂土が発する高温の「魂の炎」は、炉匠の火力技術を向上させ、深層都市の照明にも広く利用された。
第二項:錬魂術
錬魂術は、当初は、一般的な薬や毒の調合技術であった。しかし、創冥門の確立後、様々な冥界素材が利用できるようになり、その技術は飛躍的な発展を遂げる。「魂の練炭」であるブレイズロッドを用いた錬魂台が開発され、「魂の灰燼」であるブレイズパウダーを燃料としたウォートの蒸留が可能となった。これにより、肉の情報を一時的に上書きする錬魂薬が製造されるようになった。第五深層都市で確立され、錬魂術を修めた者は「薬師」と呼ばれた。
錬魂台
錬魂薬
第三項:写魂術
記録:写魂術の基礎
司書はあらかじめ、「魂の顔料」であるラピスラズリと、写魂先となる本を用意しておく。次に、魂珠を抽出する対象者と、写魂卓を挟んで席に座る。卓上の「魂の透灯」で対象者を照らすと、その記憶が可視化され、やがて魂珠として黒曜石の天板に零れ出てくる。司書は即座に、魂珠とラピスラズリを混合して顔料を作成する。書物を開き、白紙の頁にただ顔料を塗るだけで、青い文字が浮き出る。この作業を顔料がなくなるまで繰り返すと、写魂書が完成する。司書の技術が未熟な場合、対象者は魂を失って屍となるが、熟練の司書にかかると、物忘れが増える程度で済むことも多い。
写魂卓
写魂書
写魂書は、写魂術によって「魂の記憶」が刻印された書物。
写魂盤
写魂盤は、写魂術によって「魂の声」が刻印された円盤。美しい音楽が録音された円盤が残されている一方、尋問記録としか考えられぬ円盤も存在する。
響魂函
響魂函は、「魂の透灯」であるダイヤモンドと木材から作成される。響魂函に挿入された写魂盤が「魂の透灯」に照らされると、刻印されている魂の記憶が現れ、振動する。その結果、響魂函の筐体が共鳴し、写魂盤に刻まれた「魂の声」が再生される。
第四項:招魂術
招魂函
招魂函は、《スポナー》のこと。深層人が、魂の姿と記憶を再構成する哭曜石を用いて、太古文明の聖座を再現しようとしたもの。当初は、最深層に堆積した「寂しい魂」に憩を与え、穢深層を浄化する目的で研究が始まった。しかし完成したのは、聖座のように魂を引き寄せながらも、それらに憩を与えることなく、哭曜石の作用によって肉を纏わせ、穢躯を産み出す装置であった。穢躯の無限召喚を止めるには招魂函を解体するしかなく、多くは石棺で封じられて放置された。あまりにも危険な技術であったため、招魂函の作成記録は全て破棄され、現在に伝わっていない。
未設定のアイデア
クモやシルバーフィッシュのような獣のスポナーが存在するのは、招魂術の発展によるもの?
穢躯
第五項:越魂術
創冥門
創冥門は、時空間を触媒する黒曜石の性質と、操魂術の融合によって実現された、冥界との往来を可能にする転界装置。技術が確立された後、各深層都市の中心に巨大な創冥門が設置されたが、そこから滲出してきた辺境伯とその軍勢によって深層文明は滅亡する。深層文明の金字塔にして墓標。
記録:禁書『{創冥門の起動}』
創冥門は当初、写魂術と招魂術を融合させ、魂と肉の相互変換を実現する装置として設計された。構造的には、黒曜石からなる大型の写魂卓と招魂函を、門の形状に仕立てたものである。「魂の熾」で着火すると、黒曜石の触媒作用が高まり、創冥門が起動する。開口部では、招魂函が種火となった魂を躯とし、即座に、写魂卓が躯から魂を抽出する。この循環によって、創冥門の口は滅紫の炎が渦を巻く。この状態の門を躰が通過すると、その姿と記憶を保持した魂が遊離する。逆に、魂が門を潜ると、保持した姿と記憶に躰が与えられる。そのように機能するはずであった。論理的な必然ではあるが、起動された創冥門は、自身を通り抜ける肉や魂だけではなく、開口部の空間それ自体をも触媒し、変換し始めた。ほどなく、門の向こうに、深層とは異なる光景が広がり始める。それは、太古の鉱夫から語り継がれた、極深層の風景そのものであった。
第六項:望魂術
物語:咒者の心
咒者の目的は、巫女と同じく「寂しい魂」の鎮魂であった。咒者は、聖座を再現することで「魂の憩」を実現しようとしたが、しかしそれは完全な失敗に終わった(招魂函)。不可視の魂を扱うことに限界を覚えた咒者は、望魂術の研究に注力し、「魂の眼鏡」である望魂鏡を完成させた。初めて魂を「視た」咒者は、深層人による「操魂」の現実を目の当たりにした。穢深層の魂は、アメジストに集積し、結晶の中でいつまでも鳴いていた。穢響の残滓である魂砂は燃やされ、その最期の力が「魂の炎」として深層都市を照らしていた。錬魂術は魂を瓶に抽出し、写魂術は魂を本に刻印していた。その間も、魂は絶え間なく地上から深層へと舞い降り、一部は岩盤を通過し、一部は最深層に堆積していた。我々は、魂を鎮めているのではなく、弄んでいるのではないか。咒者は、思わず望魂鏡を外した。
後年、創冥門から深層に滲出してきた辺境伯を、咒者は望魂鏡を通して視た。幾千幾万の魂を背負う辺境伯は、真っ白な「魂の焔」によって、深層人たちを次々に「魂の歿」へと導いていった。それは、魂を弄んできた深層人に対する罰であり、同時に、その罪の浄化でもあるように思われた。咒者は、自分が目の当たりにしている光景こそ、「魂の憩」に違いないと信じた。
望魂鏡
第七項:復魂術
第八項:滅魂術
第十三節:技術史
- 【深層人】キノコ、サトウキビで食料を確保。
- 【司書】サトウキビから紙を作成。
- 【坑士】採掘を開始。
- 【炉匠】深層では石炭・木炭が得られず、鉱石の製錬に溶岩を利用。
- 【坑士】ラピスラズリを採掘。
- 【司書】ラピスラズリから顔料を作成、紙に記録を開始。
- 【坑士】アメジストを採掘。
- 【巫女】アメジストと穢響から穢鎮を作成(第一鎮魂術)。
- 【坑士】《シルクタッチ》を体得、《アメジストの芽》を採掘。
- 【巫女】《アメジストの芽》を穢響に移植(第二鎮魂術)。アメジスト・魂砂・魂土の入手。
- 【坑士】魂砂による「縦水路」を開発
- 【炉匠】魂土と溶岩と凍氷で玄武岩を生成。
- 【炉匠】魂砂による「魂の炎」を利用。
- 【貨商】アメジストを交易に利用、革・木材を入手。
- 【司書】紙と革で本を作成。
- 【坑士】ダイヤモンドを採掘。
- 【坑士】ダイヤモンド道具で黒曜石を採掘。
- 【司書】黒曜石+ダイヤモンド+本+ラピスラズリで写魂卓を開発(写魂術)。
- 【咒者】写魂卓を小型化した望魂鏡(黒曜石+ダイヤモンド)を開発(望魂術)。
- 【司書】ダイヤモンド、木材で響魂函を開発。
- 【坑士】「太古の坑道」から哭曜石や「太古の残骸」を入手。
- 【咒者】哭曜石から招魂函を開発(招魂術)。
- 【炉匠】穢躯を溶岩で浄化した「魂の熾」を生成。
- 【炉匠】「魂の熾」で「太古の残骸」を製錬し、ネザライトを入手。
- 【坑士】ネザライト道具による岩盤破壊の失敗。
- 【門吏】写魂卓+招魂函+魂の熾で創冥門を開発(越魂術)。冥界素材を入手。
- 【薬師】魂砂でウォートを栽培。
- 【薬師】ブレイズロッドで錬魂台を開発。
- 【薬師】錬魂台でブレイズパウダーを燃料にウォートから錬魂薬を作成(錬魂術)
