- 『ゴルゴ13 第113巻 少女サラ』さいとう・たかを

2008/06/16/Mon.『ゴルゴ13 第113巻 少女サラ』さいとう・たかを

文庫版『ゴルゴ13』第113巻。

第386話『少女サラ』

ゴルゴが他者に親切なとき、それは大抵、彼の仕事のための餌なり囮として利用するためである。読者もそんなことは百も承知である。

この種の「餌もの」「囮もの」の読みどころは、餌や囮にされた人間がゴルゴをどう見るか、という点にある。また、ゴルゴが、餌や囮に対してどのようなアフターケアをするのかも注目だ。

本エピソードのタイトルにもなっているサラは、基本的に善意の第三者としてゴルゴに利用される。このような場合、利用された者はゴルゴに感銘を受ける場合が多い。そしてゴルゴは何らかの報酬を与える。

サラは何を見て、何を受け取ったのか。という、ちょっと良い話。ゴルゴの狙撃は平凡。

第387話『戦域ミサイル防衛 TMD幻影』

戦域ミサイル防衛 (TMD; theater missile defense) 構想についての話。

TMD については現在でもまだまだ技術が未成熟で、とても実用的であるとは言い難いのが現状のようだ。北朝鮮から撃たれたテポドンが迎撃もされずに日本海に落ちた、という事実もある。それでもアメリカは熱心に開発を続けているし、日本の技術と金がそれを支援している。中国を仮想敵とした場合、日本という島国にとって、TMD の発想自体はあながち間違いではない。

台湾の地理的・政治的・軍事的な状況も日本に似ている。台湾も TMD に一枚噛みたい。というのが事実であるかどうかは知らないが、少なくとも本エピソードではそうなっている。

本作の読みどころは、右手が震えるというゴルゴの持病についてだろう。第34話『喪女の似合うとき』で発症したこの病気は、とりあえず心因性のものと診断された。そして第57話『キャサワリー』で再発する。その後、この奇病が現れることはなかったが、本作で三度発症する。また、ゴルゴが台湾において漢方の処方を受けている事実が描写される。

台湾の漢方屋の老人「また……例の病状が現れたか……お前さんのように原因不明の病の多くは、心因が作用している。緊張感の連続は、止めた方がいい……と、お前さんに言ってもむだな事じゃな……いつもの通り、十五種類の薬草をブレンドしているからな」

(第387話『戦域ミサイル防衛 TMD幻影』)

この持病以外にも、ゴルゴの右腕は何度となく危機に見舞われている。非常時を想定して、ゴルゴが左手で狙撃の練習していることは有名だ。本作でも、左手によるトレーニング、そして実戦を披露している。

第388話『ダブル・ミーニング』

ハリウッドの映画は、アメリカ覇権主義のためのプロパガンダである、という話。この主張については、虚実入り交じった面白い話が色々とある。これに、狙撃手探知システム (SADS; small arms detection system) を絡めた、エンターテイメント性の高い作品になっている。

SADS については日本語でロクな情報がなかったので、架空の設定かと思ったが、どうやら実在のもののようだ (メカニズムは作中で述べられているものと少し異なるが)。

SPOTLITE is an electro-optical system designed to pinpoint the location and sources of small arms fire. (中略) SPOTLITE analyses the fire sources detected, verifying that each source is actually enemy fire.

By rapidly closing the sensor-to-shooter loop targets can be processed within relatively short "window of opportunity" characteristic of urban warfare scenarios. When required, the system can translate target data into coordinates for other shooters, or mark the target with a laser marker.

(Spotlite - Electro-Optical Small-Arms Fire Detection SYstem - Defense Update)

自衛隊はこんなシステムを持っているのだろうか。