- 『BEST 13 of ゴルゴ13 / CELEBRITIES' SELECTION』さいとう・たかを

2008/06/02/Mon.『BEST 13 of ゴルゴ13 / CELEBRITIES' SELECTION』さいとう・たかを

各界著名人が選ぶ『ゴルゴ13』のエピソード集。類似の選集に『BEST 13 of ゴルゴ13 / READERS' CHOICE』『BEST 13 of ゴルゴ13 / AUTHOR'S SELECTION』がある。

本書の選者および選択された作品は以下の通り。

それにしても麻生太郎閣下が選者に入っていないのは何故か。あまり麻生太郎閣下を怒らせないほうがいい。いや、これは後日『TARO ASO'S SELECTION』が出るということなんだろうなァ。

オールド・ファンは初期のシブい傑作を選ぶなど、なかなか味のある選択をしていて面白い。各エピソードの後には選者へのインタビューが収録されており、そこに本書の価値がある。

同業者 (秋本治、浦沢直樹) がさいとう・たかを (とそのプロダクション制度) を褒め称えているのに対し、富野由悠季がいささか批判的だったのが興味深い。

「ただ、上手なアシスタントさんもいるだろうに、全部さいとう・たかをの絵のトーンに落とし込んでいくという誘導が見える箇所があって、せっかくスタジオ・ワークなのに、監督しているさいとう・たかを一人がすべてを創ったかのように見えるのが、僕は少し不満はあります」

「そして、こうまでスタジオワークの製品にまとめているのは、ものすごく良いことであると同時に、反面、好き者以外に寄せ付けない部分を作ってしまっている面があるともいえるのです」

「つまりこれは、10年後、20年後、さらにその先も『ゴルゴ13』という作品を継承する、次の世代が登場してくるのか、という話なんです。(中略) でも仮に第2世代、第3世代にまで継承させようと思ったら、好き者ばかりではだめで、異能の才を入れなくてはいけません」

(富野由悠季インタビュー)

漫画とアニメの違いはあるが、『機動武闘伝Gガンダム』をあくまで「ガンダム」の名の下に作った富野の言葉だと思うと重みがある。『Gガンダム』は富野の監督ではないが、この件については Wikipedia にも詳細がある。

今川泰宏を『機動武闘伝Gガンダム』の監督に推薦したのは富野で、富野が今川に「ガンダムをぶっ壊してもらいたかった」という理由からである。

(Wikipedia - 富野由悠季)

とはいえ、『ゴルゴ13』に求められているのは「サザエさん」や「ドラえもん」と同じ機能である、という見解も存在する。『ゴルゴ13』が「進化」することを求めない読者もまた多いだろう。

他には、佐藤優のインタビューが面白かった。

「基本的には国家は暴力装置を自前で持ちたがりますから、殺し屋には依頼しないですよね。でも、あたかもそういうことがありうるんだ、っていう雰囲気を『ゴルゴ13』はうまく出しているところがいいですよ」

「だから、日本が直接暴力を行使できない片肺の安全保障、こういう状況において面白い物語と思うんですよね」

「たぶん外国人が読んでも日本人の読者が感じる、依頼者がゴルゴに復讐を肩代わりしてもらう悲哀だとか、あるいは逆にゴルゴの狙撃で一気に解決するスカッとした味わいは得られ無いでしょう」

(佐藤優インタビュー)

「『ゴルゴ13』は日本において面白い物語」という評には得心がいった。大統領が戦闘機に乗って宇宙人を撃退するアメリカの映画や、あくまで MI6 という政府組織に所属するイギリス人スパイの映画と、この点において『ゴルゴ13』は違う。「復讐を肩代わり」というのも日本的といえば日本的である。要するに『七人の侍』なんだよな。

ゴルゴの抜き撃ちは居合いである、とさいとう・たかを自身が語っているように、『ゴルゴ13』は時代劇を強く意識している。

「『銃殺人ひとり』でも通りすがりのゴルゴを、銃の扱い方から「あの男はプロだ」と依頼人が見抜きます。無念さと敵討ち、凄腕の流れ者といった道具立てに、現代の話でありながら時代劇っぽさを強く感じましたねえ」

(秋本治インタビュー)

色んな読み方を許すのが『ゴルゴ13』の良いところだよなあ。そのために彼は黙っているといっても良い。