- アプリケーションの開発と想像力

2007/08/27/Mon.アプリケーションの開発と想像力

思い込みの激しい T です。こんばんは。

研究日記

Invitrogen の GATEWAY システムを初めて使う。こんなので本当に遺伝子が組換わるのか、というくらいに簡単。結果は明日。

実験用アプリケーションは、とても難しい商品だと思う。実験というのは失敗するものだが、それが「商品」となる以上、できるだけ失敗の確率が低くなるように配慮しなければならない。メーカーに基礎資料を問い合わせると、(モノにもよるが) 膨大なデータが送られてくる。説明書には微に入り細に渡る注意点が記載されており、ときには数十頁に及ぶ場合もある。

研究とは、誰も知らなかったこと、誰もやらなかったことを追求する行為である。失敗は当たり前。誤解を恐れずに極論すれば、実験は「成功すれば良い」。しかしメーカーにとって実験とは、「失敗すると困る」ものである。「成功すれば良い」と「失敗すると困る」、これは似ているようで少し異なる。研究者は失敗する条件を探す必要はほとんどない。しかし開発者は、考えられ得る限りの「失敗するケース」まで知らなければならない。減点法というか、マイナス思考というか、そういう指向が大切になってくるんだろうなあ。

こういった減点法に基づく開発は、日本ではとても重要視されてきた。日本のモノ作りにおける耐久テスト、破壊・非破壊検査は大変に厳しい。この厳格さが made in Japan を世界一に押し上げたといえる。

といっても、これはハード面に顕著なことであって、ソフトな部分では今一つという印象がある。ソフトウェアとかアプリケーションの伝承が、日本人は極めて不得意なのではないか。例えば各種の日本的「道」がある。これらは優れたソフトウェアだが、伝達は個人的であり秘教的である。口伝に秘伝に一子相伝。これが我が伝統であり、それはそれで良い面もあるのだが、どうも競争に弱い。

神道がその典型例だろうな。原典となる教典がない宗教なんて、冷静に考えると物凄くヘンだよ。仏教には仏典があり、キリスト教には聖書があり、イスラム教にはコーランがある。神道には何にもない。

海外メーカーの実験キットに添付されたマニュアルを読みながら、そんなことを考えた。日本人がこれを書くのは難しいだろうな。日本人なら、優秀なキットを作ることはできるはずだ。ただ、間違った使い方をされて実験が失敗したとき、「おいおい、ちゃんと使ってよ」と思ってしまうんじゃないか。

注意点というのは、「相手はこういうことをするかもしれない」という想像力によって生まれる。日本人はこの種の想像が下手なんじゃないか。自分の考えもしなかった行動を相手がすると、すぐに「常識がない」となる。ムラ理論だな。一方で、モノは流通するから、「変なモノを出すと恥ずかしい」。いきおい、検査が厳しくなる。これは恥の理論。などと無理矢理まとめてみた。

想像力って大事だと思うよ。目に見えている世界は凄く狭い。例えばこの日記だって、物質的には単なるディスプレイの滲みにしか過ぎない。文字に見えるのは、貴方に想像力があるからだ。