- 『織田信長』横山光輝

2007/07/10/Tue.『織田信長』横山光輝


文庫版全4巻。原作は山岡荘八。

先に紹介した『豊臣秀吉』同様、本書でも信長の青年期が緻密に描かれる。主な読者である少年達を物語へ感情移入させるには、このステップが不可欠なのであろう。また、いかに歴史上の人物といえど、その幼少期には詳細な記録が残されていない。すなわち、作家も自由に筆が奮えるわけである。

とにかく、信長の青年時代が面白い。そしてこの時期の話が、全体の約半分を占める。正妻である濃姫とのやりとりは特に秀逸だ。竹千代 (徳川家康) とのエピソード。父・信秀との対立と信頼。信長の孤独、苦悩。一方で、徐々に増えていく彼の理解者達。これは青春漫画である。桶狭間の合戦に勝利したところで終わっても良いのではないか。そう思うくらいに完成度が高い。

信長と勤王

『豊臣秀吉』でもそうであったが、本書でも信長の「勤王」が強調されている。これは少し意外だった。信長の志向の「正当性」がさりげなく述べられており、これは、横山光輝の歴史漫画が「教育漫画」として認知されていることと関係しているのかもしれない (そしてまた、彼の画風と不可分の問題でもある。これについてはまた詳しく論じたい)。

勤王の話だった。蜂須賀小六などの野武士は「南朝の末裔」であり、彼らもまた「勤王」である。戦乱を終わらせ、帝の宸襟を安んじ奉るため、彼らは勢力を蓄え雌伏している。とはいえ、さすがにこの設定は無理がある。南朝の正統が確立されたのは、明治天皇による裁定以後だ。原作者の山岡荘八はどのように考えていたののだろう。そこまでは、さすがに漫画からは読み取れない。

原作も読もうかなあ。何だか、ハメられている気もするが。