- 『豊臣秀吉 異本太閤記』横山光輝

2007/07/09/Mon.『豊臣秀吉 異本太閤記』横山光輝



文庫版全7巻。原作はもちろん山岡荘八である。

横山光輝の歴史漫画については、また別個に論じたいのだが、とにかく『豊臣秀吉』である。副題に「異本太閤記」とあるように、本書は豊臣秀吉の正確な伝記、というわけではない。物語も山崎の戦いで終わる (その後に大坂築城、関白就任などがナレーション形式で入るが、朝鮮出兵には一言も触れられない)。

秀吉は歴史上の大英雄でありながら、これほど謎と俗説の多い人物もめずらしい。その時々に有ることないことつきまぜて、大きなホラを吹きまくったからだろう。

この原作も異説を随所に取り上げ「山岡太閤記」を作り出そうとしている。異本太閤記としてあるのもそのためである。それをご承知の上でお読みいただきたい。

(「はじめに」)

本書は漫画である。小説と同じで、異説が複数ある場面でも、とにかく 1つのストーリーを選んで話を進めなければならない。あれやこれやと「正しい」説を求めているわけではない。

秀吉の母の日輪受胎から物語は始まる。そしてホラ吹き秀吉 (日吉) の少年期が生き生きと描かれる。なかなか面白い。2巻の途中から織田信長に仕えるようになるが、ここで描かれる織田家の様子もまた面白い。柴田勝家や前田利家はかなりのヘタレだし、第六天魔王・信長もまた、秀吉の饒舌に翻弄されるという有り様である。秀吉が主人公だと、どうしても彼のサクセス・ストーリーが中心とるので致し方ない面もあるが、なかなかにユニークであり、愉快だった。

それにしても、話の噛み合わない、まだるっこしいやり取りを描かせたら、横山光輝は天下一である。前田利家の婚礼の経緯とか、秀吉が三郎左に垢掻きをさせる場面とか。そもそも、横山光輝の歴史漫画は異常に台詞が長い上、さらに秀吉は多弁のホラ吹きであるという設定だから、もうどうしようもない。以下に、比較的短いやりとりを引用する。少年・日吉と野武士の一団との問答である。

武士「やい小僧!」

日吉「黙れ! 大根は小さくとも小根とはいわず 大志ある人間をつかまえて 体が小さいから小僧とは無礼であろう」

武士「屁理屈はやめておけ うぬは まことに蜂須賀一家がこわくないのか」

日吉「何の 小六などはたかが野武士の頭ではないか この日吉の目から見れば 地中にわいたみみず同然のやからだ」

秀吉ウゼえ。こいつの台詞は、全編こんな具合である。だがそれが良い。

これからのレビューについて

漫画のレビューにおいて、画像の掲載なしで論じるのにも限界がある。かといって、気安くスキャンしてアップできる種類のものでもない。なので、当面は画像なしでレビューする。何か良いアイデアはないものか。