- 『光と物質のふしぎな理論』リチャード・P・ファインマン

2007/07/05/Thu.『光と物質のふしぎな理論』リチャード・P・ファインマン

釜江常好/大貫昌子・訳。副題に「私の量子電磁力学」とある。原題は『QED The Strange Theory of Light and Matter』。

本書は、ファインマンの講演を本にまとめたものである。アリックス・モートナー記念講演は、「科学に興味をよせる一般知識人を対象とし、科学の精神と成果を伝える」ことを目的として企画されたもので、その第1回講演が、ファインマンによる量子電磁力学の解説であった。

本書は 4部に分かれている。

「はじめに」では、量子電磁力学の基本的な考え方が説明される。講演の性格上、数式は一切出てこない (ベクトルすら「ストップウォッチの針」として説明される)。ファインマンが語るのは、量子論の「イメージ」であって、その比喩が物理学的にどの程度正確なのか、私には判断が付かない部分もある。しかし、「わかった気」にはさせてくれる。門外漢には、そこが重要なんじゃないか。凡人が抽象的な理解に進むには、何らかの具体的なイメージが足がかりとして必要になる。本書は、量子力学に関する素晴らしい足がかりを我々に提供してくれる。読了するまでに、目から鱗が何度も落ちた。

「光の粒子」では、光子の量子力学が説かれる。量子レベルでは「光は直進しない」が、なぜそうなのかが、やはり直感的にイメージできるように構成されている (実際、この講演のためにファインマンはかなりの準備をしたという)。レーザーはどのように生成されるか、光が屈折するとはどういうことか。これまで何となく知った気になっていた事柄のイメージが、本書で一気に明瞭になった。イメージが明確になっただけで、説明しろと言われてもできないが。しかし、これから物理学の本を読むときは、以前よりはっきりと頭の中でこれらの現象がイメージできるであろうという確信はある。

「電子とその相互作用」では、反電子とはどういうものか、なぜ電子と反電子が衝突すると消滅してしまうのかが語られる。光が波のように見えたり粒子のように見えたりするのは何故か。干渉とはどういうことか。反射とは何か。粒子が確率的に振る舞うとはどういうことか。豊饒なイメージの連続である。

「未解決の部分」では、それまでの講演を踏まえ、話がやや専門的になる。クォーク、ニュートリノ、強い力、弱い力とは何か。これほど「わかった気」にさせてくれる本は珍しい。この気分を味わうだけでも価値はある。読後には、幾つかの量子レベルの現象に対して、何らかのイメージが残るだろう。それらは、より詳しいことを学ぼうとしたときの助けになるに違いない。

イメージって、かなり大事だと思う。私だっていまだに、遺伝子の発現を考えるときは、波線 (DNA, RNA) と丸 (タンパク質) の絵を描くもんなあ。それが方便であるということを自覚していれば、イメージは強い威力を発揮する。

延べ 93 を数える挿図が、読者の理解をサポートする。良質の教養書。