- 早送り・巻き戻し

2012/08/17/Fri.早送り・巻き戻し

音楽や動画は、ディスクの時代を経て、今ではフラッシュメモリ上で再生されるのが一般的である。にも関わらず、いまだに高速逆再生のことを「巻き戻し」という。いったい何を「巻いて」いるのか。テープを知らない若い世代は不思議に思っているかもしれない。

とはいえ、走馬燈を知らなくとも「走馬燈のように」という比喩が理解できるのと同じで、何を巻いているのかを知らずとも「巻き戻す」ことの意味は諒解できる。

——ということを踏まえた上で、あえてもう少し考えてみる。実は「早送り」という言葉もおかしい。これは高速再生のことだから「速送り」と書くのが正しい。しかし、そもそも何を「送って」いるのか。よく考えると不明である。

「早送り」に対応させるなら「早戻し」になるはずだが、なぜか「巻き戻し」である。ひょっとしたら、ごく初期の巻き戻しは高速ではなく、等速逆再生に過ぎなかったのかもしれない。

(そもそも「送る」の対語が「戻す」なのかという当然の疑問もある)

(それに、文字数が揃ってないのも気持ちが悪い。「早や送り-巻き戻し」か「早送り-巻戻し」にするべきだろう)

さて、いったい何を送ったり戻したりしているのかという問題を再び熟考してみると、それが「テープの位置」であることに気付く。これは完全に技術者の発想である。広義のデザインが欠如しているよな、と思う。消費者が送ったり戻したりしたいのはテープというハードではなく、コンテンツというソフトである。それがわかっていないから、テープというハードが消滅したときに、「何を巻いているのか?」という事態に陥るわけである。

英語では早送り・巻き戻しのことを、fast-foward・fast-rewind という。