- 『風化水脈 新宿鮫 VIII』大沢在昌

2006/04/04/Tue.『風化水脈 新宿鮫 VIII』大沢在昌

「新宿鮫シリーズ」第8作。

第1作『新宿鮫』で、鮫島と奇妙な信頼関係を築きながら刑務所の奥へと消えていった男、真壁が出獄し、全くの偶然から鮫島と出会う場面から本書はスタートする。真壁はやくざであるが、冷静にして大胆、有能であり、鮫島のことを正確に理解した人間の一人である。塀の中での務めを終えた真壁は、しばらく大人しくしている一方で、情婦との行く先について深く思い悩む。もちろん、彼がそのような心情を表面に出すことはない。

その頃、鮫島は、管内で頻発する高級自動車の組織的窃盗グループを追っていた。彼らの「工場」と思しき場所を張り込む内、近くの駐車場の管理人・大江と親しくなる。彼は土地の古老で、鮫島に新宿についての様々な話を披露する。しかし、自分の過去のことは一切語らない。鮫島は大江の来歴に興味を持つが、それが思わぬところで事件と関係してくる。

本作では事件関係、人間関係が、新宿を舞台に、時間を前後しながら濃密に描かれる。鮫島、真壁、大江という 3人の男の、いずれも譲れぬ生き方が関わり合い、互いに認め、そして結末へ向けて動き出す。これまでのシリーズのような派手さはないが、ストーリーの厚さ、そして熱さは遜色がない。

スピードに乗ってページをめくるというよりも、じっくりと味わって読みたい 1冊。