- Book Review 2006/03

2006/03/31/Fri.

武術家・甲野善紀と、漫画家・井上雄彦の対談本。甲野善紀については、一度『表の体育 裏の体育』で紹介したことがある。井上雄彦は、言わずと知れた『スラムダンク』『バガボンド』の作者である。

井上は、剣豪・達人としての宮本武蔵を『バガボンド』で描くにあたり、その身体感覚を自分で捉えられないため、執筆に困難を覚えている。そこで、武術家である甲野に技をかけてもらい、話を聞く、というスタイルを本書は取っている。2人の会話から浮かび上がってくる武蔵像はなかなか面白い。

後半は、環境問題、教育問題と武術の関わりへと話は広がる。このあたりは、以前から甲野が主張していることで、要約すると、「現代では身体が忘れられている」という意見。このへんは養老孟司と通じるものがある (この 2人の対談本『古武術の発見』に詳しい)。

2006/03/30/Thu.

『アホー鳥が行く』『それがどうした』に続く、「静と理恵子の血みどろ絵日誌」シリーズ第3弾。

伊集院静が綴る博打エッセイ (ほとんどが競輪) に、西原理恵子の全く関係ない挿し絵が付いているという、下らないといえば、ちょっと他には見られないほどに下らない本である。あまりに内容が薄いため、毎回、対談なり何なりのオマケが付いているくらいである。

伊集院静の、格好付けているダメっぷりが良い。ダメなんだけど格好を付けているというか、今の俺にはよくわからないのだが、この味、さすがは伊集院先生である。そしてそれを破壊してしまう西原の漫画。彼女のファンなら (俺がそうだ)、これだけでも買う価値はあるだろう。

何というか、暇潰しにしかならない。だがそれが良い。

2006/03/12/Sun.

O'REILLY の XML 本。副題に「エキスパートのためのデータ処理テクニック」とある。今回のリニューアルで大いに参照させてもらった。章立ては、

  1. XML 文書の参照
  2. XML 文書の作成
  3. XML 文書の変換
  4. XML ボキャブラリ
  5. スキーマ言語による XML ボキャブラリの定義
  6. RSS と Atom
  7. 高度な XML Hack

という具合。もちろん全部は読んでいない。必要なところだけをつまみ食いするタイプの本である。解説書ではないから、基礎的な説明はなされておらず、アイデアと、それを実現するためのヒントがちりばめられているという感じ。とはいえ、前半で一応の基本を学ぶことはできる。

このような本を手に取ると、色々と刺激を受ける。ときどき流し読みして、ヤル気を湧かすために使いたい (間違っているだろうか)。

2006/03/11/Sat.

2004年に邦訳されて日本でもブームになった世界的ベスト・セラーを今更。文庫化されたので。

主人公はハーバード大学の宗教象徴学教授、ロバート・ラングトン。講演でパリに訪れていた彼は、ルーブル美術館館長のジャック・ソニエールと会談する予定だったが、その夜、館長が現れることはなかった。ホテルで眠りに就いていたラングトンは、館長が殺害されたという警察からの報せで叩き起こされる。館長はルーブル美術館で襲撃され、奇妙なことに、その死体はダ・ヴィンチのウィトルウィウス人体図に模されていた。しかも、どうやら館長は、自らの意志でそのような演出を図ったようだという。おまけに、不可解なダイイング・メッセージまで残されている。

殺人の容疑をかけられたラングトンは、暗号解読官のソフィー・ヌヴーと逃亡しつつ、館長のメッセージを解読しながら巨大な謎に迫っていく。それは、ローマ・カトリック教会が必死になって隠蔽する一方で、ある組織によって連綿と伝承されてきた、イエス・キリストにまつわる重大な秘密であるらしい。

ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」「最後の晩餐」、ルーブル美術館、果てはイギリスにまでまたがるミステリーを解きつつ、あるいは協力者に恵まれ、あるいは敵対者に襲われながら、ラングトンの探索は続く。彼が最後に行き着くモノや場所については書かないが、評判通りの面白さである。

ただ、俺がほとんど海外小説を読まないせいか、やたらに切り替わる場面や視点、ちょっとあり得そうにないアクションなどには興を殺がれてしまった。上質のミステリーなのだから、謎をもっと重厚に、関連エピソードをさらに豊富にしてくれればなあ、とも思う。このへんは、ハリウッド化されることが一種の「上がり」となってしまっているアメリカン・エンターテイメントの悪弊ではないか。

いや、しかし面白かった。機会があれば、他の著作も読んでみたい。