- Book Review 2006/04

2006/04/04/Tue.

「新宿鮫シリーズ」第8作。

第1作『新宿鮫』で、鮫島と奇妙な信頼関係を築きながら刑務所の奥へと消えていった男、真壁が出獄し、全くの偶然から鮫島と出会う場面から本書はスタートする。真壁はやくざであるが、冷静にして大胆、有能であり、鮫島のことを正確に理解した人間の一人である。塀の中での務めを終えた真壁は、しばらく大人しくしている一方で、情婦との行く先について深く思い悩む。もちろん、彼がそのような心情を表面に出すことはない。

その頃、鮫島は、管内で頻発する高級自動車の組織的窃盗グループを追っていた。彼らの「工場」と思しき場所を張り込む内、近くの駐車場の管理人・大江と親しくなる。彼は土地の古老で、鮫島に新宿についての様々な話を披露する。しかし、自分の過去のことは一切語らない。鮫島は大江の来歴に興味を持つが、それが思わぬところで事件と関係してくる。

本作では事件関係、人間関係が、新宿を舞台に、時間を前後しながら濃密に描かれる。鮫島、真壁、大江という 3人の男の、いずれも譲れぬ生き方が関わり合い、互いに認め、そして結末へ向けて動き出す。これまでのシリーズのような派手さはないが、ストーリーの厚さ、そして熱さは遜色がない。

スピードに乗ってページをめくるというよりも、じっくりと味わって読みたい 1冊。

2006/04/02/Sun.

身近に存在する「玩物」をテーマに、澁澤龍彦自由に思いを馳せたエッセイ集。

登場する玩物は、「虫」「テレビ」「夢」などの一般的なものから、「男根」「ポルノ」「神のデザイン」といった澁澤好みのもの、あるいは「反対日の丸」「燃えるズボン」など、よくわからないイメージもある。

珍しいのは、それぞれの玩物について、澁澤の個人的な体験、特に幼児・少年期のそれが語られていることである。あまり自分を見せないスタンスの澁澤において、このようなエッセイは貴重である。

玩物はあくまで枕に過ぎず、彼の思い出を通じて記述される、いつもの観念的な遊びが楽しい。澁澤龍彦のルーツがチラリと見れる小品である。

2006/04/01/Sat.

「コスモグラフィア ファンタスティカ」というラテン語 (?) のタイトルが付いている。

澁澤龍彦お得意の、中世西洋を中心に様々なイメージやテーマを取り上げ、エッセイにまとめたもの。本書は大きく、

と分けられている。

出てくるアイテムは、ホムンクルス、奇形、終末思想、黙示録、悪魔、天使、神学、博物学、錬金術、ユートピア思想、アナーキズム、などなど。澁澤の琴線に触れたものどもが、博学的な知識と深い洞察によって記されている。図版も豊富で、歴史上、いかに奇妙なモノが存在していたのか、その雰囲気の一端が垣間見える。著者自身による詳解な「註」も読みごたえがある。