- 『底抜け合衆国 2000〜2004 アメリカが最もバカだった4年間』町山智浩

2012/09/16/Sun.『底抜け合衆国 2000〜2004 アメリカが最もバカだった4年間』町山智浩

本書は『USAカニバケツ』の姉妹編にあたる。二〇〇〇年の大統領選挙でジョージ・W・ブッシュがアル・ゴアを破って当選し、翌二〇〇一年から彼の第一期政権が始まったが、同年九月十一日、同時多発テロが発生し、米国はアフガニスタン、イラクとの戦争に突き進んでいく。

「愛国法」などの統制的な法律の制定に加え、巨額の戦費による不況が重なり、ブッシュ大統領に対する庶民の批判は大きくなっていく。体制側(政府、共和党、大企業など)はこれら「反体制的」な言論をあの手この手で取り締まろうとするが、それに屈しないゲリラ的な、命知らずの、ユーモアと機知に富んだ、あるいはときに正面きっての、ときどき的外れな活動が様々な媒体で続けられる。

特に、マイケル・ムーアの活躍とその作品は本書で何度となく紹介され、筆者によるインタビューの様子も生き生きと描かれている。ムーアや『華氏911』に興味があるなら読んで損はない。

全体的に政治的で暗くなりがちな話題が多いが、著者の語り口は軽妙で、常にユーモアを忘れない。

そんな豪快なタカ派発言というか暴言で石原慎太郎的人気を集めていたラムちゃん[ドナルド・ラムズフェルド国防長官]だが、イラクの大量破壊兵器が見つからず、戦争が泥沼化してからは答えがしどろもどろになってきた。たとえば、オサマ・ビン・ラディンの行方について国防長官はこう答えた。

知っているだろう。
我々が知っている既知の事実がある。
知っていることを知っていることだ。

知っているだろう。
我々が知らない未知の事実もある。
知らないことを知っていることだ。

だが、存在さえ知らない未知の事実もある。
知らないことさえ知らないことだ。

妙に韻を踏んでいるので、詩みたいに改行してみました。これってソクラテスの「無知の知」かな?

(「ラムズフェルド国防長官のポエティック・ワールド 暴言ラムちゃんのハチャメチャ発言CD化」、[]内引用者)

「それでもまだアメリカが好きなのは、笑いがあるから」(「単行本あとがき」)と著者はいう。大統領って重要だよなあ。そういえば、ブッシュが ES 細胞の研究に対する連邦政府の助成を打ち切って、幹細胞業界が一時パニックに陥ったこともある。今年はまた大統領選挙があるが、果たしてどうなることやら。