- 『日本近代文学の名作』吉本隆明

2008/07/14/Mon.『日本近代文学の名作』吉本隆明

吉本隆明が、本邦近代文学について語った 1冊。特定の作品について論じる形式ではあるが、他の作品や作家自身についての言及もある。「語った」と書いたのは以下の理由による。

日本の近代文学の名作について、わたしが語り、毎日新聞学芸部の大井さん、重里さんが、話の要約を構成するという形で、この本の内容は構成された。わたしの眼の視力がおぼつかないというのがこの形式をとった理由だ。

(「はじめに」)

本文は談話としてではなく、あくまで文章として構成されているが、語り聞き特有の平易さが感じられて読みやすい。比較的易しい文学論であるといえよう。

採り上げられるのは以下の作品。

評価の確立された名作文学から、詩、歌、評論、果ては大衆小説まで、幅広く論じられている。特に江戸川乱歩、それも『陰獣』を選ぶあたりは面白い。

本書の作品論で頻出するキーワードは「倫理」である。文学を、作家の倫理の反映という視点で語る場面が非常に多い。したがって本書は同時に作家論でもある。

言及されている作品を読んでみたくなる、秀逸な文学論。