- 『公安調査庁の深層』野田敬生

2008/08/23/Sat.『公安調査庁の深層』野田敬生

公安調査庁 (PSIA; Public Security Intelligence Agency) は法務省の外局であり、「公安」という単語ですぐに連想する、警察庁 (NPA; National Police Agency) 内のいわゆる公安警察とはまた別の組織である。公安調査庁は、破壊活動防止法 (破防法) に基づく団体規制請求が本来の業務であるが、周知の通り、破防法を適用された団体はこれまでない。したがって「何をやっているかわからない」というのが、公安調査庁に対する大方の感想だろう。

公安調査庁は、破防法の対象となり得る団体の調査を日常の業務としている。そのような団体に対する調査は、いきおい諜報活動レベルにならざるを得ない。現在の公安調査庁は、諜報組織 (しかし極めて規模の小さい未熟な) であるというのが実態のようだ。破防法という存在理由により、諜報対象の多くが、左翼、北朝鮮関係である。特に北朝鮮関係の情報蓄積は、世界的にも評価されているらしい。

とまァ、そのような公安調査庁の概要、歴史、実際が本書では述べられている。著者は公安調査庁の元キャリアで、現在は退職してジャーナリストをしているという。ただ、Wikipedia によれば、彼の退職理由は、女性上司に対する暴力行為にあるらしい。また、

依願退職に追い込まれるに至った事件とその後の経緯に対する屈折した感情が、公安調査庁に対する批判の原動力と評価する声もあり、記事内容の客観性や信憑性については疑問視するマスコミ関係者もいる。

(野田敬生 - Wikipedia)

という指摘もあり、本書の内容を鵜呑みにするのは危険であるかもしれない。ちなみに、著者は「はじめに」でこう述べている。

自ら諜報活動を展開するわけでもない一般国民がインテリジェンスに関心を持つ必要があるとすれば、それは外国政府あるいは自国政府がリークするインテリジェンス情報をどのように解釈し、判断するのか、その能力を身に付けることに尽きると筆者は考えている。

(「はじめに——誤解と幻想を超えて」)

本書も疑って読めという反面教師からのメッセージですね。わかります。

冗談はともかく、それでも本書は貴重な情報に溢れている。公安調査庁の実態については、上記の通りやや批判的ではあるが、概観するには充分だろう。また、公安警察との確執、外国諜報機関との活動協力、特に CIA における情報分析研修に関する記載は興味深く読んだ。紹介されている初歩的な情報分析の方法も、なかなか面白い。

これからの日本が諜報活動を展開する上で、どのような制度、法律、組織が必要となるのか。彼我の諜報組織との格差はどれくらいか。そのような展望も述べられている。