- 『ミステリ百科事典』間羊太郎

2005/12/10/Sat.『ミステリ百科事典』間羊太郎

間羊太郎の名著、『ミステリ百科事典』に『ミステリ・ジョッキー』『妖怪学入門』を加えた完全版。本文中で取り上げられた作品の索引が巻末に付されている。間羊太郎は、あの SF作家、式貴志の別名であり、同時に熱心な探偵小説愛好者としても知られている。

ミステリ百科事典

『ミステリ百科事典』はその名の通り、「血」「猫」「氷」などといった、探偵小説でお馴染のモチーフを項目として掲げ、それぞれの細目で、博物学的知識、トリック、印象深いエピソードなどなどを、豊富な引用で縦横無尽に語っている。

マニアならニヤリとするような鋭い突っ込み、あるいは探偵小説の歴史的変遷、優れた読書ガイド、比較文学論として、色々な角度から楽しめる。一気に読んでも良いし、気になった項目を拾い読みしても良い。頁数は多いが、語り口は軽やかである。とにかく、著者の博識には舌を巻かざるを得ない。

ミステリ・ジョッキー

雑誌の廃刊とともに休筆となった『ミステリ百科事典』を追補する意味で、新たな雑誌に連載された分をまとめたもの。したがって、体裁は『ミステリ百科事典』と大差ない。ここでも、その知識が遺憾なく発揮されている。

妖怪学入門

間羊太郎の博識は探偵小説のみに留まらず、古今東西の怪異・妖怪・怪物にまで及んでいる。『妖怪学入門』で述べられるのは、河童や天狗といった一般的な日本の妖怪だけではない。龍や吸血鬼といった、神話的存在や、西洋の伝説をも対象としている。

古書古典からの引用も多く、文献学的な論が繰り広げられたかと思えば、極めて近代的な社会科学的アプローチも採られている。様々な伝承のあらすじも、できるだけ詳細に書かれており、それらを読むだけでも楽しい。

大部の文庫だが、極めて密度の高い 1冊である。