- 『ランド』アレックス・アベラ

2011/06/24/Fri.『ランド』アレックス・アベラ

牧野洋・訳。副題に「世界を支配した研究所」とある。原題は "SOLDIERS OF REASON"、副題は 'THE RAND CORPORATION AND THE RISE OF THE AMERICAN EMPIRE'

RAND は "Research ANd Development" の略であり、戦後の米国で、誕生後間もない空軍の主導によって創立されたシンクタンクである。その思想的モデルはマンハッタン計画に求められる。優秀な科学者の集団が国家安全保障=戦争の勝利に必須であるという考えは、原子爆弾の投下によって肯定的に証明された。

結局、一九四六年の三月二日に、ランドは正式に誕生した。その設立綱領は明確だった。そこには「プロジェクト・ランドは、空戦という幅広いテーマについて科学的な研究を行うという、進行中のプログラムである。研究の目的は、空軍にとって望ましい方法や技術、手段を推奨することである」と記してあった。

(第一章「「東京大空襲」からはじまった)

「空軍にとって望ましい方法や技術」の代表例が水爆であり、大陸間弾道ミサイル(ICBM)である。ランドはこのような兵器、戦略、戦術について膨大な研究を行い、提言を始めた。ごく初期の報告書において、既に宇宙空間の重要性を説くなど、その先見性は高い。

ランドの研究範囲は拡大を続け、やがては米国政府の政策にも大きな影響を与えるようになる。対ソ連核戦略に必要な諸々の理論や思想の多くがランドで開発された。すなわち合理的選択、ゲーム理論、フェイルセーフ、核抑止力、限定戦争などである。この枠組みを採用した米国によって米ソの関係が把握され、それはまた世界中の在り方を規定した。本書が「世界を支配した研究所」としてランドを挙げる所以である。

ランドとその出身研究者たちが、ベトナム戦争、宇宙開発競争、ソ連崩壊、第三世界、湾岸戦争、そして 9・11 テロに果たした役割と功罪については、実際に本書を読んでみてほしい。ランドが絶大な影響力を及ぼした分野は多岐に渡る(二十九人のランド関係者がノーベル賞を受賞している)ので、手短に要約できない。

米国におけるシンクタンクの重要性がよく理解できる一冊。