- 『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』ジョー・マーチャント

2012/03/12/Mon.『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』ジョー・マーチャント

木村博江・訳。原題は "Decoding the Heavens: Solving the Mystery of the World's First Computer"

一九〇一年、ギリシアのアンティキテラ島沿岸で発見された古代の沈没船から、青銅製の奇妙な機械が引き上げられた。それは、小さくも精巧な歯車が幾つも組み合わさり、近代の時計にも通じる複雑な機構を備えていた。考古学的研究から、この機械の製作年代は紀元前一〇〇年頃と推定されたが、その完成度は当時の技術水準からかけ離れており、もしも本当なら、科学技術史の書き直しを要求するものであった。しかも——、機械の用途は全く不明。

本書は、アンティキテラの機械に魅了された人々が、その謎を解き明かしていく物語である。様々な研究者が、熾烈で、ときに陰湿とまで思える競争を繰り広げ、徐々に機械の秘密を暴いていく過程は圧巻である。独創性に富む数々の仮説が立てられては破られる。そして……、現代の最新技術を駆使してようやく明らかにされるこの機械の正体と、その背後に見える古代社会の煌めきに、読者は驚きと感動を覚えるだろう。

ギリシア人がその知識をさらに進歩させていたら、産業革命は千年以上早く起きていただろう。クラークは語った。「そしていまごろ私たちは、月のあたりで足踏みしたりせずに、近くの星へ到達していたでしょう」

(「Ⅳ 科学史は塗りかえられた」)

アーサー・C・クラークをしてそう言わしめたアンティキテラの機械とは何だったのか。その答えについては是非本書を読んでほしいが、Wikipedia にも詳細な記述があるので、忙しい方はそちらを参照することで概要を掴むことができる。

これほどの驚嘆すべき遺物について、私は全く何も知らなかった。ゆえにこの物語をより堪能できたのだが、この機械についてはもっと知られるべきだと思う(私が知らなかっただけで、実は非常に有名である可能性もあるが)。

本書は、機械の謎を解いていく探偵小説であり、優れたサイエンス・ノンフィクションであり、興味深い題材による科学技術史である。まさに巻措く能わざる一冊。