倉骨彰・訳。原題は "Guns, Germs, and Steel: The Fates of Human Societies"。
現在の世界には地域格差がある。現生人類が誕生したアフリカの国々の大半は今なお貧しい。アメリカ北部は富裕であるが、この地ではヨーロッパ移民の子孫が覇権を握っており、原住民の影は薄い。オーストラリアでも同様である。
どうしてこのような状態になってしまったのか。アメリカ大陸でいうなら、それは、欧州の連中が原住民を征服したからである。ではなぜ、ヨーロッパ人はアメリカ原住民に勝利できたのだろうか。彼らが優れた文明——政治、経済、軍事、科学、技術などの先進システム——を有していたから、と答えるのは簡単である。しかし、ではなぜ、ヨーロッパ(を含むユーラシア大陸)の文明は、アメリカ大陸のそれを上回って進化したのだろうか。その逆はどうして起こらなかったのか。
本書では、この疑問に対する「究極の要因」を求めて広範な考察が繰り広げられる。著者自身による要約は以下の通りである。
「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」
(「プロローグ」)
一万三〇〇〇年前までには、人類は南極大陸を除く全ての大陸に進出していた。この時点において、各大陸に居住する人類(社会)の間に明確な差はなかった。この後に農耕社会が出現し、文明は各地で独自の進化を始めるわけだが、本書ではその速度を規定する要因として、以下の諸点が挙げられる。
本書では、これらの仮説が様々な角度から検証される。生物地理学、文化人類学、言語学、歴史学の最新の知見が動員され、次々と論拠が提示されていく。示されるデータは膨大だが、論旨は明快であり、論証は痛快ですらある。検証が特定の地域に偏ることもなく、むしろ非先進地域に関する考察が多い。
人々の置かれた環境がその発達を規定するという、考えてみれば当然とも思えるパラダイムを確立した一冊。今後の展望としては、シミュレーションによる数理モデルの検討などが考えられる。そのような研究があれば是非とも目を通したい。