- 呼称

2014/05/04/Sun.呼称

島田紳助が傷害容疑で書類送検された際、「島田司会者」という呼称が報道で用いられ、多くの人間が違和感を覚えた。類似例として「稲垣メンバー」などがある。

よく考えると「イチロー選手」も本当は奇妙な表記なのである。英語では Ichiro player とは言わない。

野球では選手をさらに細分化して「田中投手」と呼び分けることもある。しかしサッカーでは「中田MF」とは言わない。ポジションを明らかにするために「MF中田」と書くことはあっても、呼称には使わない。話しかけるときはあくまで「中田選手」である。

力士は選手といわず「朝青龍関」という。関は関取のことであり、これは一人前の力士の総称であるから、研究社会における「博士」と似ている。関取も博士も称号であり、尊称として機能するから名前の下に付けるのは自然である。

プロゴルファーも選手を使わず「青木プロ」という。アマチュアを馬鹿にしている風に感じられなくもない。なぜゴルフ界では積極的に「プロ」が使われるのか。歴史的な経緯があれば知りたいものである。

棋士は「加藤九段」と段位を名乗る。段位には降格しないという特徴がある。他方、「羽生名人」は一時的なタイトルで、これは失冠する可能性がある。野球でいえば「長嶋首位打者」「王本塁打王」に相当する、奇異な呼称といえよう。一方で「中原永世名人」は名誉教授のような終身称号だから妥当である。栄誉称号は終身制が多い。だから「終身名誉監督」などは重言に思える。それとも、非終身の名誉監督が別に存在するのか。一日署長のようなものか。

(ところで、本塁打王と打点王が存在するのに、なぜ打率王ではなく首位打者というのかは謎である。また、女子リーグでは、本塁打女王、打点女王、新人女王となっているのだろうか)

研究者も様々に呼ばれる。博士については既に述べた。「先生」は教師にも医者にも政治家にも使われる汎用的な敬称である。「教授」は職位であり、軍隊なら「中将」などの階級に該当する。彼らの具体的な役職は「学科長」なり「師団長」である。漠然とだが、対外的には職位・階級が用いられ、役名を使うのは主に内部の者であるという区別はある。また階級は、先に挙げた棋士の段位にも似ている。

職名そのものが称される場合も多い。「古舘アナウンサー」「渡辺衆議院議員」などの用例は広く親しまれている。

既婚女性を指すには「夫人」という便利な言葉がある。配偶者の呼称の下に付けて「社長夫人」という二重代名詞としての用例もある。しかし夫人に対応する既婚男性の人称がない。「山中教授は夫人を伴って授賞式に出発した」。さて、女性が賞を取ったとき、同じ趣意の文章を簡潔に書けるだろうか。夫の対語は妻であって夫人ではない。封建主義的な意味を含む「主人」「旦那」などの語は公に使えない。いっそのこと「山中配偶者」とでもするしかない。これなら同性のカップルにも適用可能である。

……色々な例を考えていくと、「島田司会者」だけを奇天烈とする理由はないように思えてくる。単なる慣れの問題であろう。手塚治虫のように、全員を「○○氏」で済ませる方法もある。あるいは逆に、どんな属性でも名前の後に付けられると開き直ることもできる。無論、後者のほうが愉快である。

斉藤三年生、葉加瀬バイオリニスト、小泉新自由主義者、などなど。