- 骨格筋と心筋(二)

2012/09/14/Fri.骨格筋と心筋(二)

上腕二頭筋

心筋も骨格筋も同じく中胚葉由来である。もっとも——、この「同じく」という言葉の使用には注意を要する。極端な話、我々の身体を構成する細胞は全て「同じく」受精卵由来である。いったい何が「同じ」なのかはよく考えねばならぬ。全く同一であれば、そもそも心筋と骨格筋に分かれるわけがない。

話を進める。以下は妄想である。

心筋(心臓)は、身体の極めて限られた領域に集中して存在する。一方、骨格筋は broad に遍在する。乱暴にいえば、心筋以外の筋肉は骨格筋である(平滑筋は進化的に古い筋肉である)。それで思うのは、予定筋肉細胞は特別な signal が入らない限り、自動的に骨格筋へと分化するのではないかということである。この着想は、骨格筋分化が MyoD によって極めて容易かつ強力に促進されるのに対し、心筋分化には多数の転写因子が関与していること、そして心臓は骨格筋に先んじて発生することなどと矛盾しない。

この妄想において、心臓と骨格筋の構造的な相違は決定的である。心筋細胞への分化と、心房心室を有する心臓の形成との間には、なお隔絶がある。隔たりを埋めるには、さらなる制御が必要である。心臓の発生が複雑なのは、その構造が複雑だからといえる。

心臓には目立った幹細胞が存在しない。勝手に心筋が増えると心臓の「形」が崩れるから——、という理由は単純に過ぎるだろうか(付け加えるなら、この logic は中枢神経系にも適用できる)。

およそ骨格筋にはこの種の制約がない。したがって、写真の男のように一部の筋肉だけを奇形的に発達させることも可能である。このような劇的な形態変化は心臓ではあり得ない。間違いなく死亡する。

それにしても、写真の彼はどのようにして袖に腕を通しているのだろうか。ひょっとしたら、腕を鍛える前から、ずっとこの服を着たままなのかもしれない。……という、変な素直さが妄想には重要だと思っている。精進したい。