- 捨てず離れず

2012/09/12/Wed.捨てず離れず

松本清張『昭和史発掘』を再読している。五・一五から二・二六に至る当時の社会状況は現在のそれと酷似している。今、三島由紀夫が活動していたら大人気を博すのではないか。生まれるのが遅過ぎたと彼は嘆いたが、四十年早過ぎたともいえる。第二の三島が出ずれば面白いのだが、現れたのは由紀夫こと鳩山であった。

自分が生きる社会を冷静に観察するにはどうすれば良いか。鴨長明のように世を捨てては、「自分が生きる社会」という前提が崩れてしまう。この問題の解答としては不可である。我々は『方丈記』を書きたいのではない。この社会の内で生き、だけでなく具体的に関与し、その上でなおかつ理性的に判断し、沈着に対応したいのである。

この困難な課題を達成する一助となるのが、他の社会との比較である。歴史に学ぶ、異なる社会を訪う、などの方法が考えられる。平凡な結論だが、実践は容易ではない。