- 真っ青な嘘

2012/09/10/Mon.真っ青な嘘

以下は与太話である。

癌、心臓病、脳卒中。日本人の三大死因である。いずれも老病といって良い。老人過多のこの世界で、これらの疾患を緩和する研究が盛んに行われる。緩和。研究されているのは、治療ではなく緩和の方法である。癌、心臓病、脳卒中。これらは治らない。治っても再発する。原因の大半は老化だからである。どうしてもというなら、遺伝情報を書き換え、新たな動物として生まれ変わる他ない。

癌、心臓病、脳卒中。これらは治らない。その事実を知る者はその事実を語らない。関連分野に資本が投下されなくなるからである。彼らはよく運動をし、食事を摂生し、体型の維持に腐心する。使うべきに金を使い、階層の異なる人間とは接触せず、無用の心労を回避する。そのような生活が、死の到来を遅滞させる最も効果的かつ唯一の手段だからである。

日本では、癌によるのと同程度の「人数」が中絶で「死亡」している。日本人口の自然減は年間二十万人だが、中絶胎児が全て産まれれば人口は増加する。

この十数年、自殺者数は年間三万人を下らない。法的に「自殺」と認定されるには、法医学者による解剖を要する。医学部を出て法医学を志す者は少ない。年間三万人という数字は、全国の法医学者が解剖できる死体数の上限であり、実数は不明である。法医学者は他殺体にも手を煩わされるが、年間の殺人事件数は僅々千余件に過ぎない。

デュシエンヌ型筋ジストロフィー DMD は、出生男児三千五百人に一人が発症する遺伝性筋疾患である。五歳までに歩行が障害され、三十歳までに心不全ないし呼吸不全で死亡する。DMD は希少疾患とされる。自殺者数を年間三万人とするなら、これは全人口の四千分の一である。小児にはこの種の「希少」疾患が多い。

何をどう述べようとも嘘になる。これを「真っ青な嘘」と個人的に呼んでいる。

何のために長生するのか。これは二十世紀後半になって初めて人類が抱えた課題である。余剰の生を生きる命はあるのだろうか。縄文杉はまだ花粉を飛ばしているのか。寡聞にして知らぬ。