- 寺生まれの K さん

2012/07/26/Thu.寺生まれの K さん

空海伝説というものが各地にある。「この温泉は弘法大師が見付けた」「いろは歌は空海が作った」などである。大抵は事実ではない、とされる。平たくいえば嘘である。そんな山奥にまでお大師様は来ないし、何でもかんでも発明したわけではない。高野山のような秘境に寺を建てるはずはなく、真言のようなマジナイを唱えるわけもない。

もちろん冗談だが、金剛峰寺開山が真実で温泉発見が嘘であることを説明するのは、意外に難しい。また、真偽の腑分けは学問的に重要であるが、いささか窮屈に感じることもある。世の論文を全て頭から信じることができればどれほど幸せだろうか、自分の生活を顧みてそう思う。もっと大らかな世界で遊びたいという欲求は止むことがない。

全部本当なのではないか。空海ってスゲエ、俺はそう思いたい。何だか寺生まれの T さんみたいだが、残念ながら空海は寺生まれではない。

もう少し一般化して、さらに妄想してみよう。

全体を見渡せば、どう考えても物理的に嘘であることが必定の逸話群がある。一方、個々の逸話の信憑性は非常に高いとする。このとき、人はどのような判断を下すだろう。彼の超人的な活動を認めるだろうか。こんなに活躍する彼は凄い、となるかもしれない。そんな彼だからきっとこんなことも……、という具合に新たな逸話が増える可能性すらある。彼が伝説的な英雄であった場合、逸話群が彼の実在性を疑わせるといった逆転現象が起きても不思議ではない。

ちょっと面白いな、と思う。

話は飛ぶ。

これまで、この日記に様々な妄想を書きつけてきた。言語に関係するもの、言語で表現可能なものが多い(文章で書いているのだから当然だが)。真面目な考察もあるが、大抵はふざけたものである。今日の空海伝説もその範疇にある。このような小話や仕掛けを満載した小説を書いてみたいな、と夢想することが多くなった。本当は書くのではなく読みたいのだが、そんな小説はないので自分で書くしかない。