- 毛の話あれこれ (2)

2007/10/21/Sun.毛の話あれこれ (2)

体調が回復してきた T です。こんばんは。

昨日の日記で哺乳類の体毛の話を書いた。その後で少し気になったのだが、毛が生えている皮膚と、その隣の無毛の皮膚では絶対に遺伝子の発現プログラムが違うわけで、一体これはどのように制御されているのか。何らかの位置情報を細胞が保持している (あるいは受け取っている) ことは間違いないはずで、そのシグナルを解明する方が、あるいはハゲ解消の早道になるかもしれない。

昨日の日記では哺乳類の体毛のことを「毛」と書いた。ところが「毛」というものは意外に定義が難しい。細胞学的に全く異なるものが、同じ「毛」という名前で呼ばれているのが現実である。

哺乳類の体毛には神経が通っていない。神経が通っているものは洞毛と呼ばれ、ネコのヒゲなどがその例である (「毛の話あれこれ」)。

精子や大腸菌には鞭毛があり、これは多くの場合、細胞本体よりも長い。エネルギーを消費して精密に鞭毛を動かすことによって、細胞は液体の中を泳ぐことができる。鞭毛を動かすタンパク質複合体は極めてよく研究されており、分子モーター云々という話の源はこのあたりにある。鞭毛モーターのエネルギー効率の高さ (ほぼ 100%!) は驚くべきもので、これもまたタンパク質モーターが注目されている理由である。

鞭毛と似たものに繊毛がある。基本的な構造は同じである。長くて少なければ鞭毛、短くて多ければ繊毛と思えばよろしい。

鱗と毛は関係がある。ただし、以下はうろ覚えだから不正確な情報かもしれない。爬虫類の鱗は皮膚由来で、哺乳類の毛と同じ起源を持つ。だが、魚の鱗は骨格由来だから別物である。昆虫は外骨格系であり、羽などの毛もまた、哺乳類とは異なった構造を持つ。繰り返すが、以上は曖昧な情報である。

そういえば植物にも毛があるな。あれは何だろう。研究員嬢が Arabidopsis (シロイヌナズナ) の出身だから、また訊ねてみよう。

——という具合に、一口に「毛」といっても様々な種類がある。表面に飛び出ている細長いものは全て「毛」と呼ばれている反面、昆虫の触角などが「角」であったりするのはまた解せないところである。触覚の細長さや柔らかさは、「毛」といっても構わないと思うのだが、どういう使い分けなんだろうな。