- 進化と退化

2006/10/02/Mon.進化と退化

「RNAi にノーベル賞が贈られるかどうか」を、Dr. B と話したことを思い出した T です。こんばんは。

2006年のノーベル医学生理学賞は、RNAi の研究に対して、Andrew Fire と Craig Mello に贈られた。

研究日記

終日病院。

英語の学会抄録を 2つ書いて仮登録。移動や実験がないとホント身体がラクだわ。などとほざいていたら「ジジイか」と言われる。最近の俺は、もはやオッサンではなく、おじいちゃん扱いされることが多い。皆が優しいので嬉しい。「おじいちゃん今週こそは休みましょうね」「ああ皆のおかげで学会発表も登録できたしなあ」。ふがふが。

ES 細胞はいくらでも増殖する点で癌細胞と同じ性質を持つ。ES 細胞は放っていたらドンドンと分化する。つまり「未分化」という状態は細胞において「特殊な」状態であるわけだ。ES 細胞の無限増殖性は未分化状態であることと密接な関係がある。したがってまた、無限増殖という現象も「特殊」であると推測できる。

癌細胞の無限増殖能は構成的である。癌細胞が極めて未分化的な特徴を有するのも頷ける。どちらが鶏で卵かわからないが、少なくとも分化能と分裂能には強い相関関係がある。

分化って何だろう。単細胞生物は無限に分裂して増え続ける。そういう意味で、彼らは生殖細胞そのものであるともいえる。一方で、単細胞生物は 1つの細胞で何から何までやらなければならず、多数の細胞内小器官あるいは鞭毛繊毛といった細胞外器官を持つ。形態学的および機能的には「よく分化している」といっても良いほどの複雑さだ。

多細胞生物は単細胞生物が群生したことからそれぞれに機能特化、つまり分化が起こって生じたと考えられる。となれば、そのうちで生殖細胞が採った道は「退化」ではないのか、という疑問が湧く。全能性というのはつまり、「何物でもない」ということに他ならない。

退化、進化、特化という言葉が持つベクトルの危険性については過去に論じたが、要するにどれも単なる「変化」でしかない。進化して良いことが、果たしてこれまでにあっただろうか。高度に進化した生物種のほとんどは絶滅している (例えばカンブリア大爆発を見よ)。一方で、多くの古細菌が何十億年も生き残っているんだよね。生命の究極の目的が「自分の遺伝子を残すこと」だとすれば、一般に「進化」と捉えられている生物の複雑化は、「退化」としか思えない。しかし実際のところ、生命の歴史はこの方向に進んでいる。

何でだろう?