- タンパク質は化学物質

2004/12/23/Thu.タンパク質は化学物質

我が豪邸の大掃除をした T です。こんばんは。

掃除日記

昨日、ラボの大掃除をした余勢を駆って、我が部屋のクリーンアップに乗り出す。こんなものはノリでやらないといつまでも片付かないので、良い機会だ。散らかっているとはいえ、その大半は本と服で、整理するモノの種類は少ない。しかし掃除の進行に伴い、散乱している書籍が本棚に入り切らないことが判明。ついに本棚増設か。来春には引っ越すつもりなので、あまり体積のデカい買い物はしたくないのだが……。

大掃除には欠くことのできないバケツであるが、我が豪邸にはバケツがない。一々水道で雑巾をすすぐのも面倒なので、風呂に湯を張ってバケツ代わりにした。さすがにこれだけ湯があれば足りるだろうと考えたのだが、掃除が終わる頃にはドブ川の水のようになってしまった。

風呂場

汚れ過ぎだろ。おかげで風呂掃除が大変なことに。過ぎたるは猶及ばざるが如し。

研究日記

構造屋・分析屋
生物学では、自分の専門分野を卑下して「〜屋」ということがある。他人に対して使う場合は尊称となる。「構造屋」はタンパク質の立体構造解析のスペシャリスト、「分析屋」は分光測定、酵素活性、化学反応などの専門家である。生物物理学会には、この2者が数多く在籍している。俺が今まで見聞きしたものでは、「タンパク屋」「酵素屋」「計算屋」などがある。しかし何故か「遺伝屋」「発生屋」などは聞かない。物理化学に近い分野ほど「〜屋」を名乗る傾向がある。恐らく屋号の発祥はそちらなのだろう。

生物物理学会などに行くと、構造屋分析屋と話をする機会があるのだが、彼らのタンパク質に対するスタンスは、俺とは大きく異なる。俺は線虫の変異体を解析しており、関連している研究分野と言えば、遺伝学・発生学・形態学・組織学といった、本当に「生物」を扱うものが多い。細かくやったところで、せいぜい細胞生物学くらいのものだろうか。あとは、生化学の真似事を少し。

俺のような、いわゆる普通(?)の生物学を学んでいる人は、タンパク質を「生命の最小単位」として捉えがちな気がする。たった20種類のアミノ酸から構成されるというシンプルなシステム、しかしながら立体構造や化学修飾によって大きく変化する性質、複雑な相互作用、そして何よりも膨大な種類と数。何となく、「生命」を彷彿とさせるような特徴に溢れているではないか。タンパク質こそ、生命の謎を解く秘鍵である。とまあ、そんなイメージが俺にはある。

一方、構造屋は「タンパク質は化学物質」と主張する。いや、一々主張などしない。それが前提となって話を進める。「タンパク質は化学物質」。確かにそうなんだが、発想というか出発点というか、それがもう俺とは全然違う。「タンパク質は化学物質」。しつこく繰り返すが、何度聞いても新鮮な言葉だ。ショッキングでさえある。そしてそれは悪い心地ではない。M先生のラボでプレゼンテーションしたときにも、同じ衝撃を受けた。かのラボは、構造屋の集団なのである。

「タンパク質は化学物質」。この言葉に覚える違和感は、まだまだ俺の知らない世界が存在するという証左でもある。核酸も、膜脂質も、水も、全て化学物質である。生物は化学物質の集合体であり、熱力学の法則に準じた反応を繰り返している。そのことを頭では理解できるが、具体的にイメージして再構成する能力が俺にはない。構造屋は「細胞はデカ過ぎる」と言う。色んな見方があるんだなあ、と思う。学問の何と豊かなことよ。