- 論文の話あれこれ

2004/06/09/Wed.論文の話あれこれ

セミナーのための論文を読んでいる T です。こんばんは。

略語が最も頻繁に使われている文章、それはもう生物系の論文をおいて他にないんじゃないか。そう思えるくらいに略語が多い。例えば、今日読んだ論文の abstract には、

ERp57 doesn't affect the activity of SERCA 2b mutant lacking CRT binding site.(13語 78文字)

という文章があるのだが、これを略さずに書くと、

Endoplasmic reticulum protein 57 doesn't affect the activity of sarco endoplasmic reticulum calcium adenosine triphosphatase 2b mutant lacking calreticulin binding site.(21語 169文字)

となる。読みにくいことこの上ない。例を挙げるとキリがない。この論文にも出てくる「IP3R」というタンパク質は「inositol 1,4,5-trisphosphate receptor」の略だし、「どんだけ縮めてんねん!」という物質名は、他にも山ほどある。

略語だけではない。混乱させるために付けたとしか思えない、紛らわしい名前もよく目にする。上の例文にも出てくる「calreticulin」はカルシウム結合タンパク質の一つだが、カルシウムシグナルに関わるタンパク質の多くは、名前が「cal-」で始まる。思い付くままに挙げると、

calreticulin、calmodulin、calsequestrin、calseneurin、calbindin、caldendrin、calretinin、calsenilin、etc...

創造性のカケラも感じられんな。特に何だ、「calbindin」て。そのまんまじゃないか。

このようなタンパク質のうち、ある程度メジャーになると、やはり略号が与えられる。上の「cal-」シリーズで最も有名なのは calmodulin だが、こいつの略号は「CaM」である。この CaM を脱リン酸化する酵素がある。リン酸化酵素は kinase で、これは「K」と略される。故に、CaM のリン酸化酵素は「CaMK」となる。さらに、この CaMK をリン酸化する酵素がある。勿論、名前は「CaMKK」だ。これは冗談ではない。

ショウジョウバエの対立遺伝子や表現型には、ふざけた名前のものが多い。B氏が好んでネタにするのが「Satori」という表現型。この対立遺伝子があると、その雄は雌に興味を示さなくなる。それで表現型の名前が「Satori = 悟り」と名付けられた。人をバカにしているとしか思えない。ちなみにこの Satori の雄、雌ではなく雄には興味を示すらしい。悟りどころではない。ただのホモである。そんなオチまでついている。

最近俺が読んだものでは、「Samba」という表現型がバカらしかった。ショウジョウバエの間接飛翔筋に関する遺伝子に変異が落ちると、そのハエは飛べなくなる。その中には、飛べないまでも、羽をバタバタ動かせるくらいには軽度な表現型もある。それがどうやら踊っているように見えるらしく、「Swing」や「Breakdance」などと、これまた人を食った名前が付けられている。

Samba の場合、動作自体は Breakdance とよく似ている。何が違うのかと言うと、この Samba、温度感受性変異体なのである。暑くなると踊りだす。で、Samba = サンバ。

ふざけるのもいい加減にしろと言いたい。