- 絵難坊

2002/11/20/Wed.絵難坊

わかればわかるほど、わからないことが増える。諸君、好奇心は満たされているか?

徒然草に「絵難坊」の話がある。絵難坊というのは、どんなに見事に描かれた絵に対しても必ず難点を見付けてしまうという、絵画鑑賞の名人のことだ。

あるとき帝は、それは素晴らしい絵を二つ献上された。一つは貴族が犬の首に縄を付けて引っ張っているもので、貴族が渾身の力で引っ張っている様子、そして犬が連れて行かれまいとして必死に抗っている仕種が、まことに生き生きと描かれている。もう一つは、樵(きこり)が山中で大木に斧をふるっているもので、筋骨隆々の樵、半ばまで切り込みを入れられた大木の描写は、今にもコーン、コーンという音が聞こえてきそうなほどであった。

そこで帝は、この 2枚の絵を絵難坊に見せてみた。

帝「どうや、おんどれ、このスンゴイ絵にケチつけれるか?」
絵「まことに素晴らしい限りですが、いささか欠点がございます」
帝「おう、ほんなら、その欠点ちうのを言うてみい」
絵「まずは貴族の絵ですが、犬を力いっぱい引っ張っている割には綱がピンと張っていません。樵の絵の方は、大木の半ばまで斧を入れているのに、散らばっている木屑が少なすぎます。どちらも世にも希な名画ですが、いささかの欠点が惜しまれますなあ」

この後、話は「ほほう、さすが絵難坊よ」という具合に終わる。諸君、この絵難坊という人間をどう思われるか?

感想 A
どのように立派な仕事でも、見る目を持った冷静な第三者が見れば必ず欠点が現れてくる。従って、絵難坊のような人間の言うことはよく聞くべきだ。
感想 B
綱が張っていないのは、まさに貴族が引っ張ろうとする瞬間を捉えたのかもしれず、また、樵は几帳面な正確で、小マメに木屑を処理しているのかもしれない。大体において、人の仕事にケチをつけるのを職業としているとは何事か。それなら貴様が誰にも文句を言われぬ絵を描いてみろ。絵難坊のような人間の言うことを聞く必要などない。

ちなみに、今日の俺の気分は「感想 B」の方です。実験ってね、結果が出ても出なくても辛いよ。