- 『USAカニバケツ 超大国の三面記事的真実』町山智浩

2012/09/15/Sat.『USAカニバケツ 超大国の三面記事的真実』町山智浩

題名にあるカニバケツの意は以下の通りである。

たくさんのカニをバケツに入れておくと、フタをしなくても逃げないという。一匹がバケツから出ようとすると他のカニに引きずり下ろされるからだ。

このカニバケツの話は、突出する者を許さない日本社会のたとえによく使われる。けれども実は、Crab bucket syndrome としてアメリカでも知られている言葉なのだ。アメリカン・ドリーム、一攫千金のサクセス・ストーリーの国でなぜ?

(「はじめに」)

本書は、米国の社会風俗を、セックス、ドラッグ、犯罪、テレビ、スポーツなどの身近な(?)エピソードをこれでもかと重ねることで鮮やかに描き出す。基本的にゴシップなのだが、その周辺を述べる膨大な固有名詞と数字から、著者の智識と情熱を窺うことができる。

僕は何度か米国に行ったことがあるが、いずれも学会参加が目的だった。会うのは研究者、触れるのはサイエンスだけである。そのときに僕が感じたアメリカ的なるものは、恐らく「良いアメリカ」のものである。けれども、例えばホテルでベッドメイクをしてくれる従業員(日本人の僕よりも英語が下手な人種不祥の人たち)、彼らがどんな生活を送っているかについては全く知らない。あるいは、飛行機の窓から見る都市と都市の間の広大な地域、決して学会で訪れることのないこのような場所に住む人々が何を考えているのか、これも全く知らない。

本書は、僕がこれまで漠然と抱いてきた疑問に、極端な例を挙げながら答えてくれる。「アメリカ人はオッパイと酒のことばかり考えている」「都合の悪い事実はメディアによって隠蔽されている」と著者はいう。でもそれは、日本も同じである。考えてみれば当たり前のことだ。それに気付くだけでも本書を読む価値があるだろう。