- 『JFK』ジム・ギャリソン

2009/10/22/Thu.『JFK』ジム・ギャリソン

岩瀬孝雄・訳。副題に「ケネディ暗殺犯を追え」とある。原題は "On the Trail of the Assassins"、副題は 'My Investigation and Prosecution of the Murder of President Kenedy' となっている。

ケネディ暗殺事件——とりわけ、事件にまつわる多くの疑念——については広く知られているので詳述しない。

事件当時、著者はニューオリンズの地方検事であった。ダラスで発生した暗殺事件に関わったのは、実行犯である——とされた——リー・ハーベイ・オズワルドがその夏、ニューオリンズに住んでいたからである。オズワルドの奇妙な生活を追いかける内に、次々と怪しげな人間関係が浮上してくる。同時に、政府・マスコミによって発表された事件の「真相」についての疑惑が頭をもたげてくる。

著者は検事局のメンバーで特別チームを構成し、地道な捜査、根気の要る手続き、膨大な資料と格闘しながら、彼らの真相に迫って行く。この過程が警察小説、法廷小説のようであり、またスリリングな調書のようでもある。複雑な背景が交錯に交錯を重ねるが、頁をめくる手は倦むことがない。

著者は地方検事になる以前は第二次世界大戦を欧州で戦い抜いた軍人でもあり、その気質は剛直にして誠実、絵に描いたような「法の人」である。捜査が核心に近付くにつれ、彼は、徐々に露骨となる妨害工作 (捏造された事件によって連邦政府に起訴される、マスコミにネガティブ・キャンペーンを張られる、など) に晒されるが、彼の態度は終始一貫しており、常に毅然としている。暗殺事件の背景にはドス黒い陰謀が示唆されるが、彼を中心とする検事たちの爽やかな人間性は、この記録における貴重なアクセントになっている。

ケネディ暗殺事件は、CIA を中心とする中央情報コミュニティの一部分子が共謀した「クーデター」というのが著者の結論である。この時期、CIA の、暴力を伴う独自秘密外交が奇形的に拡大していたことを思うと実に納得がいく (肥大化した CIA の独走を詳述した書物を読んだはずだが、ついに本棚から見付けることができなかった)。

今回、この事件と CIA について新たな感想を覚えた。それは、この時期の CIA と昭和初期の大日本帝国陸軍の相似である。CIA の暗躍は上層部の決定に依るものだけではない。一部の者 (強烈な反共主義者、極右的思想の持ち主が多い) と非正規のエージェント (外国人を含む) が独自かつ内密に計画を立案し実行する。議会や政府は、しばしばそれを事後承諾的に黙認させられた。これは、青年将校や大陸浪人が跋扈し、張作霖爆殺事件、五・一五事件などを引き起こした我が旧軍の歴史を彷彿とさせる。

米国が孕むこの問題は現在まで尾を引き、近くは 9・11 事件についても奇怪な噂が絶えない。今後アメリカ合衆国が没落することがあるとすれば、経済や軍事の敗北によってではなく、自らの国民を欺くことすら厭わない選民思想的な人物・組織によって崩壊するのではないか。……ということを思った。