- 『パズル・パレス』ダン・ブラウン

2009/06/03/Wed.『パズル・パレス』ダン・ブラウン

越前敏弥、熊谷千寿・訳。原題は "DIGITAL FORTRESS"。ダン・ブラウンの処女作である。

舞台は米国国家安全保障局 (NSA)。その深奥に鎮座まします空前の暗号解読機<トランスレータ>。これによって合衆国は世界のあらゆる暗号を解読できるわけだが、その<トランスレータ>にウイルスが仕掛けられる。NSA の高級職員であり本作のヒロインであるスーザンは、上司とともにこの未曾有の危機に立ち向かう。一方、<トランスレータ>に仕掛けられたウイルスを解除する鍵を求め、スーザンの恋人である大学教授・デイヴィッドはスペインに飛んだ……。

梗概を書くと何ともバカバカしいプロットである。暗号やコンピュータに興味のある人にとって、鼻白む場面も多いのではないか。だが、短い舞台時間を細かく分割し、目まぐるしくシーンが移り変わるダン・ブラウン流の物語構成はこの処女作から充分に完成されている。そのため、読んでいて飽きるということはない。しかし読後は、「ふーん」と思うだけで何も残らない。これはある意味で凄いことではないか。狙ってやっているのなら尚更である。