- 『ゴルゴ13 第114巻 害虫戦争』さいとう・たかを

2008/06/22/Sun.『ゴルゴ13 第114巻 害虫戦争』さいとう・たかを

文庫版『ゴルゴ13』第114巻。

増刊59話『高度7000メートル』

ゴルゴが乗る飛行機や船はよく (ゴルゴの存在とは無関係に) ハイジャックされる。行く先々で殺人事件に巻き込まれる名探偵のようなものだ。

今回は、ゴルゴが登場した飛行機に爆弾が仕掛けられる。一定以下の高度になると爆発するという、映画『スピード』と同じパターン。Survive するゴルゴ、という意味ではシリーズお馴染のパターンでもある。

危険を冒して爆弾を処理しようとするゴルゴに、搭乗者の一人が声をかける。「関係のないあなたが、こんな危険を……」。それに対するゴルゴの回答。

危険は……爆弾が仕掛けられている限り、機内に居ても、同じことだ……それに、俺は犠牲になる気はない……自分が生き抜くために、やるのだ……

(増刊59話『高度7000メートル』)

第389話『害虫戦争』

穀物を主軸として描いた農業問題、経済問題はシリーズの中でも秀作が多い。特に、第176話『穀物戦争 蟷螂の斧』と、第180話『穀物戦争 蟷螂の斧 汚れた金』は名作の誉れが高い。

本作では、アメリカのトウモロコシが採り上げられる。トウモロコシは、コーンとして人間が食べる以外に、様々な用途で膨大な量が消費されている。食用油、糊料、そして畜産の飼料。アメリカの食生活はトウモロコシ抜きでは成立しない。日本におけるコメのようなものか。コメ同様、トウモロコシの新しい種子や品種の開発は重要な産業となっている。

自らが開発した遺伝子組換えトウモロコシを広めるために、ハイクロップ社は害虫を全土に散布しようと試みる。ハイクロップ社のトウモロコシだけがこの害虫に耐性を持つ。他のトウモロコシが全滅すれば、全土のトウモロコシはハイクロップ社の品種に置き換えられるだろう。独占販売というわけだ。

この害虫もまた、遺伝子組換えによって薬剤耐性を身に付けている。計画の阻止を依頼されたゴルゴは、どのような方法で害虫を全滅させるのか、というのが焦点。

バイオやコンピュータの話になると、途端にリアリティがなくなるのがゴルゴ・シリーズの悪いパターンだが、本作の解決方法は納得のいくものだった。良作。

増刊60話『原子養殖』

核兵器が拡散するのは、基本的に良くないことである。一方、核兵器が少数の大国によって独占されている状態では、国際社会の不平等はいつまで経っても回復されない、という事実もある。大国のエゴに押しつぶされる小国にとって、核兵器は一発逆転を可能にする魅力的なアイテムだ。

ウランの採取技術が発達し、核兵器の開発はどの国でもできる状況になりつつある。

第390話『黒い記憶』

登場人物の過去にゴルゴが関わっていた、というのはよくあるパターンだ。脳科学者であるマコーマー博士もまた、そうであるらしい。彼の記憶は一部閉ざされている。

US メディシン社は、マコーマーが開発した画期的な新薬によって、大衆メーカーから処方薬メーカーへの脱皮を計っていた。これを快く思わないのが医学界である。多種多様な大衆薬を認可させるため、US メディシン社は医者に研究を依頼し、医科大学に寄付をしてきた。

依頼人「"US メディシン" には、大衆薬メーカーとして、まだまだ稼いでもらわねばならないのです。処方薬メーカーへと変身して、世界的な評価を得てしまったら、医学界への寄付金が激減してしまう……」

ゴルゴ「医学界の顔色をうかがう、卑屈な大衆薬メーカーにとどまっていろ、と、いうわけだな……」

(第390話『黒い記憶』)

妙にリアルである。と思うのは俺の職業のせいなんだろうな。