- 『工作少年の日々』森博嗣

2008/06/11/Wed.『工作少年の日々』森博嗣

工作を主題としたエッセイ集。当たり障りのない内容が多いが、唯一、「飛行機の証明」と題された回にだけは鬼気迫るものを感じた。いわゆる「趣味に狂う者」の生活や心情が、悪びれもなく (かといって開き直っているわけでもなく) 恬淡と綴られる。その態度に凄みを感じる。

子供は年子だったから、僕の奥さんはとても大変だった (と簡単に書けるのは、その大変さがわかっていないからだ、と奥さんは言うだろう)。たまに大学を休める日曜日 (といっても午前中の半日だけだが) になると、僕は車に飛行機を積み込んで、片道一時間もかかる模型飛行場へ出かけていく。僕の奥さんは、慣れない車の運転をして、小さい子供たち二人を乗せて、僕の車のあとについてきた。僕の車には大きな飛行機が載っているから、もう人が乗れないためだ。そして、飛行場で、僕が飛行機を飛ばしている間、奥さんは子供たちを近くの川原で遊ばせていた。僕は、子供たちの相手をしたことは一度もない。ずっと飛行機の整備をしていた。

(「飛行機の証明」)