- 『21世紀本格宣言』島田荘司

2008/01/06/Sun.『21世紀本格宣言』島田荘司

『本格ミステリー宣言』『本格ミステリー宣言 II ハイブリッド・ヴィーナス論』に続く、島田荘司御大の本格論。

島田御大のいう「本格」あるいは他の用語 (「探偵小説」「推理小説」「ミステリー」などなど) に関する論は基本的に変わっていない。前二書と比べて随分と柔らかくなっているなあ、という気はするが。

島田本格ミステリー論の要諦は、「前段の不思議と、後段におけるその論理的な解明」という極めてシンプルなものである。「前段の不思議」は犯罪関係であることが望ましいが、それは必要条件ではない。むしろ 21世紀御大は、犯罪以外の分野に不思議を見出そうと勤めていることが実作や本書から伺える。

一方で、いわゆる「社会派」的な興味も旺盛である。例えばそれは冤罪問題、裁判問題、死刑問題、歴史問題、環境問題であったりする。これらのテーマに関して御大は幾つかのノンフィクションを発表しているが、同時により多くの小説を発表している。恐らく取材の過程で、各テーマに関する「自分なりの話」が大きく膨らんでいくタイプの人間なんだろうなあ、という気が以前からしている。

オリジナルの小説にしてもそうで、例えば加納通子の生涯だとか、御手洗潔のバックボーンだとか、犬坊里美の進路だとか、島田御大が妄想型の作家であることがよくわかる。このあたり、『グイン・サーガ』の栗本薫とよく似ている。

島田御大が探偵小説史に深い関心を持っていることもよく知られている。以前からエドガー・アラン・ポー、コナン・ドイル、江戸川乱歩については随分と色んなことを書いている。本書では『コナン・ドイルはフレッチャー・ロビンソンを殺したか』という小文が掲載されており、なかなか面白かった。これだけでも本書を買う価値がある。

乱歩以降の作家で島田御大が重要視しているのは高木彬光と鮎川哲也である。この 2人に関する小文は以前から書かれており、本書にも複数収録されている。また、本書で最も重要であろうと思われるのは『「森村誠一」試論』だ。島田御大が森村誠一についてまとまった文章をものにしたのはこれが初めてだったはずだ (発表自体は 1998年であるが)。また、大藪春彦論である『報復のターミネーター、伊達邦彦』も興味深い。

というわけで、島田ファン必読の 1冊。