- 『暗黒館の殺人』綾辻行人

2007/11/15/Thu.『暗黒館の殺人』綾辻行人


文庫版が出たのでパラパラと再読。短い感想は、ノベルス版を読んだときの日記に書いた。また、本書が探偵小説の五大奇書の候補として挙げられていることも以前に書いた。

ノベルス版を読んだときと感想はあまり変わっていない。面白いといえば面白い。非常に長い小説だが、途中でダレることはない。様々な要素が緊密に挿入されている。ただ、それらは全て、これまでの綾辻行人的なモノでしかなく、悪くいえば寄せ集めとも思える。特に新しい何かがあるようには思えない。いや、エンターテイメントだから別にそれでも構わないんだけど、世評がイヤに高いので、「それほどかなあ」とつい思ってしまう。

本書で使われた、視点に関する「ある仕掛け」は賛否が別れるところだろう。チャレンジではあると思うが、もう少し洗練された形にできなかったのか、という問い掛けも残る。解説は以下のように弁護する。

超自然的な "視点" の存在は、あらゆる伏線・矛盾点をたった一人の作中人物に拾わせて、この長大な小説を一個の本格ミステリーとしてフェアに成立させるための異例の手段として要請された。

(佳多山大地「解説 最終回」)

でも、どうしてそうしなければならなかったのかというと、本作が「館シリーズ」の 1作であるからなんだよね。本書の外にそういう枠が課せられてある以上、そうせざるを得ない。それによって、古くから建築家・中村青司を知る人はカタルシスを味わうことができるわけだ。本書の最大の興味がそこにある。

しかし、本書をただ 1個の探偵小説として読んだとき、私が求めるような「新しい何か」があったかといえば疑問。そこで評価の軸がブレてしまって、「面白いといえば面白い」という曖昧な評価になってしまう。シリーズの読者でない人間の感想が聞きたいところである。