- 『日本史集中講義』井沢元彦

2007/11/07/Wed.『日本史集中講義』井沢元彦

副題に「点と点が線になる」とある。これは、

日本史の専門家というのは、狭い分野の専門家であって、日本史全体、日本通史の専門家というのは、実は驚くことに一人もいないのです。それが現状なのです。だいたい日本通史学という学問すらありません。

(「序章 なぜ教科書では歴史がわからないのか」)

という、井沢元彦の主張を反映したものと思われる。上に引用したような「専門家」が教科書を書いているからダメなんだ、という歴史教育批判もまた年来のものである。

本書では日本の歴史を古代から現代まで駆け足で辿っている。通史のおさらいもされているが、それとは別に、現行の教科書を引用して教育問題も個別かつ具体的に行っている。むしろこちらの方がメインといえるかもしれない。

教科書の説明によると三世一身法 (七二三年) では、四代目になると土地が国家に戻ってしまうので土地が荒れてしまう。そこで、もう少し長く所有したいという要望が出て、墾田永年私財法 (七四三年) というものが発布されたということになっています。

しかし、この説明は明らかに嘘です。

というのは、三世一身法が出てから墾田永年私財法が出るまで、わずか二〇年しかないからです。いくら寿命が短い昔のことだといっても、二〇年のうちに四世代も経って田畑が荒れるなどということはありません。

(「2章 <中世>朝幕並存の謎を解く」)

律義だなあ、と思う。このような井沢の指摘の仕方を「揚げ足取り」と思う向きもいるかもしれないが、私は彼の継続性と粘り強さにはいつも感心している。上に引用したような文章って、実際に書くのは面倒だと思うんだよね。それを毎回厭わないところに著者の誠実さを感じる。歴史教育に問題があることは事実なのだから、このような具体的な指摘こそ重要であるだろう。