- 『変な学術研究 1』エドゥアール・ロネ

2007/05/29/Tue.『変な学術研究 1』エドゥアール・ロネ

高野優・監訳、柴田淑子・訳。副題に「光るウサギ、火星人のおなら、叫ぶ冷蔵庫」とある。

いわゆるトンデモ研究を紹介する本である。しかし、ちょっとニュアンスが違う部分もある。本書で採り上げられる研究は、査読付きの学術誌に発表されたものばかりである。専門外の人間は、「まともな研究なんだろう」と思ってしまいがちだが、よくよく読んでみると「変な研究」は山のようにある。Nature などの超一流 (といわれる) 雑誌に掲載される論文も例外ではない。

変な研究

今日では世界じゅうで科学技術に関する雑誌は二〇万誌以上を数えるようになった。毎年、各分野における科学者が書く論文の数は二五〇〇万本にも上っている。それは平日の一日あたりにすると一〇万本である。

しかし、残念なことに、このような科学報告は、どれでも面白く読めるというわけではない。実際に大部分の論文は実に難解で、非常にとっつきにくいとさえ言えるのである。たとえば、当てずっぽうに二〇〇三年一一月二一日の《脳研究》誌を開いてみよう。そして一八七頁を見ると、「アラキドン酸過酸化物は Neuro2a 細胞に対して細胞内カルシウム濃度上昇とミトコンドリア障害によりカスパーゼ-3 非依存性アポトーシスを誘導する」というタイトルの研究報告が載っている。(中略) おそらくこの論文はこの分野ではとても重要なのだろう。だが一般の人にはもはや手の届かないところにあるということである。

(「序文」)

これは、実際に現場で研究している人には頭の痛い指摘である。確かに学術誌の大勢はそうなのだ。だが著者は、そんな中から「変な研究」を探し出して私達に提示してくれる。

(T註: DNA の構造を明かすような、真に革命的な論文は面白いと紹介した後)、しかし、読んで面白い科学論文にはもう一つの種類がある。 どのようなものかというと、作者が意図しないようなユーモアあふれる論文である。この種の論文は読む人をかぎりなく愉快な気分にしてくれるのだ。しかもその分野の専門知識がなくても十分に楽しめる。たとえば、「ハトによるモネとピカソの絵画の識別」という論文がある。この論文は一九九五年に日本人の研究者、渡辺と坂本と脇田によって《行動実験分析》誌 (六三巻、一六五 - 七四頁) に掲載された。それはハトをモネとピカソとを見分けられるように訓練する研究である。この実験は慶応大学の行動心理学の研究グループによって行われて、みごとに成功をおさめた。ハトがモネとピカソを見分ける? 聞いただけでわくわくするではないか!

(「序文」)

本書には、このような「変な研究」が 54題も紹介されている。CERN の加速器は史上最も高価な時刻表であり (「満ち潮の物理学」)、ゴッホは 1889年 7月 13日 21時 8分に、傑作『月の出』を描いた (「二一時八分のヴァン・ゴッホ」)。

フランス人の著者による本文はエス・プリが効いており、イギリスやドイツの研究には妙に厳しかったりするのも微笑ましい。純粋にコラムとしての魅力も充分な 1冊。