「記憶スケッチ」とは何か。
提示されたお題を記憶のみに頼って描いてみることを「記憶スケッチ」とし、その作品を愛でながらも「人間の記憶とは、そして絵心とは」などについて研究しているのが「記憶スケッチアカデミー」なのです。
人間の記憶のでたらめさを白日の下にさらすことによって、己の中にも確実に存在する「間抜け」を不可抗力として認めて生きていこうという、すでに宗教の域にまで達したと言ってもいい理念に基づき活動しています。
(「はじめに」)
このような主旨で、ナンシー関が「お題」を提出し、読者が「記憶のみに頼って描い」た絵を投稿する。それらをナンシー関が選別して、簡単な寸評とともに掲載する。それだけの企画なのだが、投稿される絵が実に味わい深く、色々なことを考えさせられる。
この連載は『通販生活』に掲載されていた。私の実家では『通販生活』を取っており、帰省するたびにこのコーナーを楽しく読んでいたことを思い出す。
人の記憶がいかに曖昧か。例えば「にわとり」という題では、4本足のにわとりの絵が大量に送られてくる。たとえ絵心がなくとも「にわとりは 2本足で立つ」という事実は考えればわかりそうなものだが、絵筆を持ってしまうとそのような常識はどこかに吹き飛んでしまうらしい。それが面白い。投稿者の年齢層は非常に幅広く、「若い人は鳥が 2本足で歩くことを知らない」という単純な結論には至らない。中高年もバンバン間違える。
それから、「動物に眉毛を描く」という行為。かつて「明石家電視台」という番組の中で、間寛平が動物の絵を描くときには、いつも眉毛を描写していたことを思い出した。しかし寛平に限ったことではないらしい。「記憶スケッチ」でもやたらと「動物に眉毛」が出てくる。描かないと落ち着かないんだろうな。
そのような業が垣間見える、素晴らしい素人画集。