- 『東京大学の歴史』寺崎昌男

2007/04/12/Thu.『東京大学の歴史』寺崎昌男

副題に「大学制度の先駆け」とある。まことにその通りで、東京大学は日本最初の国立大学、つまり唯一無二の帝国大学であった。後にできた大学は、全て東京大学の制度を基準としている。

本書では東京大学の成立を、その前段階から丁寧に掘り起こす。例えば 4月から新学期という日本の慣習も、帝国大学の発足とともに制定されたという、意外に知られていない逸話が、豊富な資料を駆使して説明される。非常に興味深い。

帝国大学は明治政府が総力を挙げて作り上げた大学であった。初期の教授は全て外国人 (いわゆる御雇外国人) であり、世界中から招聘された彼らの給料は世界一高額であった。貧しい明治政府が国の将来を見据え、高等教育に莫大な投資をした事実を思うと涙が出てくる。

とはいえ、いつまでも外国人教授の世話になるという考えがあったわけではない。帝国大学の卒業生は順次留学し、帰朝してからは御雇外国人と入れ替わるように教壇に立つ。日本の学問の礎を築いたのは彼らであることに間違いはない。

帝国大学と明治政府は長らく一心同体であった。それは癒着ではない。日本の学問・教育の質を向上させるにはどうすれば良いかという難問に対して、手を取り合って模索していたのである。この過程で、大学と政府の間で方向性の違いが顕になってくる。帝国大学は政府に対し粘り強く、時には強気に交渉を継続し、徐々に大学としての自治権を獲得していく。

本書の後半では、現在の東京大学についても触れられる。国立大学が法人化され、大学は再び改革の時期を迎えた。東京大学がどうするのか。良くも悪くも、注目されている。