- 『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』野矢茂樹

2007/02/10/Sat.『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』野矢茂樹

ルードウィヒ・ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』の訳者による、『論考』の解説書。著者が東京大学大学院で開講したゼミが元になっている。

非常にわかりやすい。著者自身が「『論理哲学論考』を理解したいと思うならば、この本を読むのが現時点では最短の道であると言いたい」(「はじめに」) と豪語している (「まったくの一般論であるが、哲学の解説書というのは読まない方がよい。哲学の魅力は哲学者の肉声にある。せめて翻訳でもよいから、原典に向かわねばならない」とも書いているが)。確かに、記述は平明であり、議論は明快である。もう一度『論考』を読み直したくなった。

いささか本論から外れるが、本書から感じられるのは、著者の『論考』への愛である。例えば『論考』には幾つかの誤りがあり、ウィトゲンシュタイン自身も後に一部の撤回を表明している。『論考』では語られていない (当たり前だが) これらの誤謬も本書では解説されている (「文庫版あとがきにかえて」にも詳述)。『論考』自体がどういう具合に位置付けされるか。そのような、『論考』だけを読んだのではわかりにくい部分も把握できる。

『論考』を読んでいない人には用のない本であるが、『論考』を読むのなら (特に著者の訳による『論考』を読むのなら)、是非とも併読したい名著である。