- 『偉大な数学者たち』岩田義一

2007/01/14/Sun.『偉大な数学者たち』岩田義一

タイトルの通り、数学者の列伝である。内容は大きく 4つに別れる。

  1. 「古代の数学」: アルキメデス、ギリシア以前、ピタゴラス
  2. 「近世数学のみなもと」: ガリレイ〜ホイヘンス
  3. 「近世数学の開花」: ニュートン〜ラプラス、モンジュ、ルジャンドル
  4. 「近世数学の高峰」: ガウス〜ガロア

分量的には、ほとんど近世数学の話である。

中身は易しい。各数学者の業績に触れているが、数式などは出てこない。時代背景、人間関係、あるいは手紙の引用などが多い。少々物足りない気もするが、例えば E・T・ベル『数学をつくった人びと』は敷居が高い、という人にも、気楽に読めるという点で推薦できる。良書ではある。

エヴァリスト・ガロア (Evariste Galois)

この種の本を読んで、いつも涙を誘われるのがガロアの話である。1811年のパリに生まれた彼は、1832年に 21歳で歿するまで、ほとんど誰にも評価されなかった。再評価されるのも、死後随分と時が経た後である。「証明」が業績の根幹となっている数学で、このようなことは珍しい。

彼はステレオタイプな「天才」である。エコール・ポリテクニックの入学試験で、教官がつまらないことばかりを質問するので黒板消しを投げつけるような、そういうタイプの天才である。そのために彼は 2度も試験に落ちる。「ちょっとは大人になれよガロア」と思うのだが、それがまた彼の魅力なのである。

彼は代数方程式の研究に関する成果をまとめ、アカデミーに論文を送るが、全く理解されないまま原稿は紛失されてしまう。しかも 2度である。ガロアの絶望はいかばかりか。彼の憤慨は世の中の憎悪へと向けられ、当時のフランスで盛り上がっていた革命運動へと自身を掻き立てる。結果、彼は監獄へとブチ込まれる。そして出所後、恋愛沙汰に巻き込まれ、馬鹿馬鹿しい決闘で命を落とすのである。

決闘前夜、死を覚悟した彼は、学問的な遺書を書く。証明の概要の余白には「時間がない」と書き込まれ、筆跡は加速度的にぞんざいになっていく。決闘の時間は近付くが、これまで認められなかった彼の発見を余さず語るには時間が少な過ぎる。机を離れねばならなくなったときの彼の気持ちは察するに余りある。

本書では、アーベルとガロアの関係が詳細に述べられているのが興味深い。2人に直接の接触はなく、あくまで学問的な関連である。しかしながら、両者の人生には共通点も多い。アーベルもまた、恵まれない人生であった。とはいえ、若くして死ぬ直前に業績は評価され、貧しかったとはいえ諸国を巡り、最後は婚約者の腕の中で息を引き取る。決闘で腹を撃ち抜かれ、泥にまみれて死を待ったガロア (最後は病院に運ばれたが) よりは幸せだったろう。

ガロアは熱心にアーベルを読み、その問題をうけつぎ、それを解決したのである。いわばアーベルの魂がガロアにのりうつり、ガロアの天才をかりて自分がのこした問題をといたのであろう。そのためにガロアの一生は無残に終わったが。

(本書)

一八三二年五月三一日の早朝、ガロアは二一歳で亡くなった。彼は南霊園の共同墓地に埋葬された。それで、今日そこにはエヴァリスト・ガロアの墓はあとかたもないのである。彼の永遠の記念碑は、その全集である。しかも、それはわずか六〇ページしかない。

(E・T・ベル『数学をつくった人びと II』「20 天才と狂気 ガロア」)