- 『司馬遼太郎対話選集 10』司馬遼太郎

2007/01/05/Fri.『司馬遼太郎対話選集 10』司馬遼太郎

副題は「民族と国家を越えるもの」。対談相手は、

副題の「民族と国家を越えるもの」とは何であろう。一つの答えは「文明」であると思われる。一方で、「民族」や「国家」を規定するものが「文化」であるといえよう。本書に収められた対談に限った話ではないが、司馬遼太郎は「文明」と「文化」をいつも峻別している。

例えば岡本との対談は「稲作文明を探る」であり、松原との対談は「稲作文化と言語」と題されている。確かに「稲作文明」といわれれば、東南アジアを中心とした広域世界が思い浮かぶし、何の断りもなく「稲作文化」といわれれば、日本史のそれを想起する。「稲作文化と言語」というタイトルは絶妙である。「言語」もまた文化を規定する (特に日本においてはそうである)。一方で、岡本との「文明」対談においては、海外で生まれ育ち、「芸術」としての縄文土器を発見した岡本の広い文明観が語られる。

司馬が「座談の名手」といわれるのは、このような部分においてまで気が遣われているからであろう。また、とかく放散しがちな対談という場において、会話の機軸がぶれないの秘密もここにあると思われる。