- 『司馬遼太郎全講演 [2] 1975-1984』司馬遼太郎

2006/12/08/Fri.『司馬遼太郎全講演 [2] 1975-1984』司馬遼太郎

司馬遼太郎講演集第2巻。1975年から 1984年までの講演が収められている。

近代日本語の形成についての話が多い。明治維新は政治革命であったと同時に、日本語における文化革命でもあった、というのが司馬の持論である。そして、近代日本語を創設した立て役者が、夏目漱石と正岡子規であるという。2人の文章は、万人に理解できる共通性とリアリズムを持っていた。この文章が日本国民全員に行き渡るのは、昭和30年代における週刊誌の勃興によってである。これらのことは、文章でも何度か綴られている。ネットで誰もが日記を書くようになった現在の状況を見て、司馬なら何と言うであろうか。現在は、新たな日本語の変革期かもしれない。

さて、私が最も面白いと思ったのは、「ロシアについて」という講演であった。「ロシアにとってシベリアとは何か」がテーマである。確かに、あの巨大な領土の正体はよくわからない。学生時代、世界地図を見るたびに思った疑問でもある。シベリアが地下資源の宝庫であると理解され出したのは最近である。そのずっと以前から、ロシアは膨大な労力を費やしてシベリアを経営していた。シベリア鉄道の建設なんてのは、ちょっと誇大妄想が入っていないとできない事業である。

ロシアはその成立上、欧州に劣等感を持ち、アジアを恐怖した。そしてロシア正教の採用という歴史の悪戯が、ロシアの孤独を決定付けた。これが概略である。欧州に劣等感、というのはわからんでもないが、ロシアがアジアを恐怖する、という説は意外だった。日本や中国こそ、ロシアを恐れているのではなかったか (日露戦争であり、シベリア出兵であり、関東軍である)。ところが、ロシアはロシアになる前に、モンゴルによって徹底的に収奪されている。これがロシアの原体験であると司馬は言う。

証拠はないが、説得力はある。少しロシアに対する見方が変わった 1冊。