- 『角の三等分』矢野健太郎

2006/09/30/Sat.『角の三等分』矢野健太郎

『アインシュタイン伝』を書いた矢野健太郎による、角の三等分問題を平易に解説した 1冊。原書は、昭和18年という時期に創元社から出された「科学の泉」というシリーズの中の 1冊である。こと科学関係に限れば、太平洋戦争中に著された名著は存外と多い。乱歩の『芋虫』は発禁になったが、一方で、「角の三等分」という浮世離れした問題を考える書物は出版されていたのである。

話が逸れた。「角の三等分」は、ギリシアの頃より数学者を悩まし続けた 3つの幾何学問題の 1つである。3つの問題とは、

  1. 任意の立方体の 2倍の体積の立方体を作れ。
  2. 任意の円と同じ面積の正方形を作れ。
  3. 任意の角を三等分せよ。

幾何学の問題であるから、いずれも両脚器 (コンパス) と定規しか使ってはならず、かつ、有限回の操作しか認められない。結論からいえば、いずれも不可能である。

本書は、このうち、角の三等分がなぜ不可能か、に焦点を絞って解説している。任意の角を三等分するという幾何学的操作は、

x3 - 3x - a = 0

という三次方程式の解を求める代数的操作と同じであることを意味する。この方程式が有理数の解を持たなければ、角を三等分できない。そういうことが諄々と解かれている。

角の三等分屋

フェルマーの最終定理でもそうなのだが、この問題は、問題自体は容易に理解できる。そして、幾何であることから、何となく解けそうな気もする。「角の三等分は不可能」ということが証明されてからも、「三等分できた」と称しては論文を送り付ける輩が、古今東西絶えなかったようである。

本書においても、一松信の解説の最後に「角の三等分屋」という文章があり、いわゆるトンデモな人々の生態が面白く綴られている。また、数学書の編集者である亀井哲次郎の『「角の三等分家」と付き合ってみて——しんどかった』というエッセイも収録されており、これもまた面白い。