- 『銀河の世界』エドウィン・ハッブル

2006/09/04/Mon.『銀河の世界』エドウィン・ハッブル

戎崎俊一・訳。

エドウィン・ハッブルが、イェール大学で行った講義をまとめた本。ハッブルが、「遠くの銀河ほど大きな速度で遠ざかる」という「ハッブルの法則」を発見した経緯が詳しく、しかし比較的容易に記されている。この法則により、我々の宇宙が膨張しているであろうことは、ほぼ間違いないこととなった。もちろんノーベル賞を受賞したのだろうと俺は思っていたのだが、調べてみると、やや複雑な事情があるようだ。

ハッブルが活躍していた頃、天文学はまだ物理学とは認知されておらず (というよりも、ハッブルによって天文物理学が開拓されたといっても良い)、ノーベル賞の対象ではなかった。1953年、ノーベル賞委員会は天文学を物理学の範疇に含めるという決定を下したが、惜しくもハッブルはその直前に亡くなっていた。既に、ハッブルが受賞者に内定していたという。

さて、本書はそのような天文物理学の黎明期になされた巨大な成果の記録である。議論は、銀河が星の集団であるのかどうかというレベルからスタートする。また、多くの銀河は遠方にあり、その正確な距離を算定するための方法論の構築から試みなければならなかった。望遠鏡に映った像は写真乾板に焼き付けられていた。ようやくデジタル素子による撮影が始まろうかという頃である。

ハッブルは多数の銀河を撮影、分類し、その距離を求め、スペクトルを分析し、やがて銀河のスペクトルに赤方偏移を発見する。この現象を説明する理論はドップラー効果しかないと考えたハッブルは、「銀河が遠ざかっている」という仮説にたどり着く。そして求めた距離とのプロットから、「遠くの銀河ほど大きな速度で遠ざかる」という法則を打ち立てた。両者、つまり距離と速度の関係は驚くほど線的であったが、この結果は、多数の銀河の観測と、その距離の決定という地道な作業の賜物であった。

したがって、本書で多く述べられているのは、具体的な銀河の観測方法であったり、得られた値の妥当性についての検討であったりといった、比較的地味な話である。俺なんかはまさにその点に感動したわけである。スマートでエレガントな科学解説書も大切だが、このような本こそサイエンスの実際を雄弁に語っていると思う。