- 『天使と悪魔』ダン・ブラウン

2006/06/10/Sat.『天使と悪魔』ダン・ブラウン

『ダ・ヴィンチ・コード』ダン・ブラウンによる、象徴学者ロバート・ラングトンのシリーズ第1作。

今回は、ヴァチカン対イルミナティの争いに CERN (欧州原子核研究機構) の反物質が絡むという、内容だけを聞けば非常にトンデモな話である。宗教や結社、絵画、彫刻、建築、図章などに関する豊富な蘊蓄は本作でも健在。複雑に錯綜した事件が、極端に短い章立てでテンポ良く語られるのも、『ダ・ヴィンチ〜』に共通した構成である。読んでいてせわしないのだが、それは『ダ・ヴィンチ〜』で慣れた。

実際、物語時間が濃密なのだから仕方がない。早朝にアメリカで叩き起こされた我らがラングトン氏は、スイスの CERN で最初の殺人を目の当たりにし、数時間後に爆発するという反物質を追ってヴァチカンに飛ぶ。この地で彼は、更に数件の連続殺人を阻止するために奔走し、ヴァチカンの深奥でキリスト教の光と影に触れ、400年に及ぶイルミナティの強固な謎を解き、宗教と科学について真剣に考え、生命の危機を幾度となく潜り抜け、ヒロインとオメコまでしなければならない。まことに忙しい。というか無理だろ。

『ダ・ヴィンチ〜』の書評でも触れたが、悠久の時間と対峙する「歴史ミステリー」と、読者に緊張をもたらす「時限サスペンス」の手法がてんこ盛りにされており、この組み合わせは好悪の別れるところではないか。どうにも俺は消化不良で……。嫌いじゃないんだが。