- 『螢』麻耶雄嵩

2006/06/04/Sun.『螢』麻耶雄嵩

毀誉褒貶の激しい麻耶雄嵩であるが、俺はデビュー作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』の頃から変わらず最上級の評価を下している。意固地になって、評価するために評価しているわけではない。傑作と思うから傑作だといっているだけなのだが、「傑作であること」を理解するためには相当の探偵小説を読んでいる必要があると思われるので、わからない奴にはわからないだろうし、わかる人と話せば大変盛り上がる。

勘違いされやすい麻耶作品の中でも、本書は最も勘違いされやすいのではないか。「読んで面白かったか」と問われれば、これまでの麻耶作品よりは「つまらない」というのが素直な感想だ。もっとも、これは「小説としての」という枕詞をつけての印象なわけだが。しかし、麻耶雄嵩の常なるテーマが「探偵小説という枠組み」である以上、読者としての俺が興味を持っているのは更にメタなレベルの構造であり、その点においては本書も劣らぬ傑作である。

探偵小説においてトリックが用いられる最も単純な理由は「驚かすため」であるが、では誰を驚かすのかという、およそ今まで考えもしなかった視点を指摘するだけでも、本書の「メタ度」を保証できる。

小説が自己言及的になることによって新たに言及できるものがあるだろうか。本書はその鮮やかな 1例である。